![]() ![]() ![]() - 第239回 - 筆者 中村 達
『雪山登山者の風景』 浅間山の山麓に出かかけてきた。山麓といっても標高が2,000mもある高峰高原というところだ。基点は小諸市だ。関西の人には馴染みが少ないところだが、首都圏からだと長野新幹線で軽井沢の次の佐久平で降り、そこから車で30分ほどのところにある。東京駅からだと2時間足らずと近い。 急坂を上り高度を一気にかせぐと車坂峠に着く。車坂峠が浅間山にもっとも近い登山口で、このあたり一帯を高峰高原と呼んでいる。高原にはアサマ2,000パークスキー場があり、ホテルも2軒だけある。このあたりは国立公園の特別地域に指定されているが、来訪者の多くはそれを知らないらしい。 ![]() 車坂峠のビジターセンターでスキーを脱ぎ、コーヒーを飲んで窓越しに外を見ていると黒斑山からだろう、数パーティの登山客が下山してきた。きっと楽しい雪山歩きだったと思う。ほっとした表情がそれを示している。彼らは頭の上から足の先まで完全装備だ。 なんとなく足元を見ると、みんな一様にアイゼンをつけている。よーく見ると、12本爪のアイゼンだった。このあたりには氷壁などはない。昔のことを言って恐縮だが、アイゼンは稜線やクラストした雪の斜面でしか付けなかった。黒斑山への稜線であれば、アイゼンは必要だろうが、それまでは樹林帯だからアイゼンでは歩きにくいと思うのだが・・・。 ビジターセンターのスタッフが、アイゼンを付けたま入ってくる登山客もいて、床に穴だらけになっていると、嘆いていた。 次に下りてきた登山客は、ザックからコンロと鍋を取り出した。ビジターセンターの入口の屋根下で調理が始まった。ガスコンロを床ではなくベンチの上に置き、そこで炊き込むようだ。ベンチは調理台ではなく、ましてコンロ台ではない。吹き零れると、煮汁が染み込んで座ることが出来なくなる。 仕方がないので、ビジターセンターを出るとき、「美味しそうですね。水炊きですか?」と話しかけ「でも、せめて床の上でお願いしますね」と言ってしまった。嫌味に聞こえたかもしれない。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。 NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。 |