- 第237回 -  筆者 中村 達


『年賀状にみる山登り』

 今年も年賀状をたくさんいただいた。そのなかで、山に登ったり、山を歩いていると記している人が大勢いるのに驚いた。若い頃からの山繋がりの仲間が多いので、当然といえば当然だが、そうではなくて、仕事の関係で知り合った人たちも山を歩いている。低山からヒマラヤトレッキングまで幅が広い。
 昔から山を登っている、いわゆる山男というのは、意外と控えめで、体力が落ちてきたけれど、なんとか歩いています。それなりに楽しんでいます、という風だ。これは継続組といったらいいのだろう。
 昔やっていたが、定年を機に再び登りだしたという再開組は、例えば日本100名山を登るなどと目標が書かれていたり、ようやく夢が実現しネパールのトレッキングでかけてきました、と元気な写真が印刷されていた。おしなべてうれしさに溢れていた。

 一方、始めました組というのがある。定年を迎えて自由時間ができたので、健康のためにも、山登りを始めたという人たちだ。あの人もこの人も山を歩き出した、と年賀状で知った。少し頑張り気味の気がする。

 もっとも、私たちの世代は山や自然に縁が深い。子どもの頃は遊びといえば野原や里山、あるいは河原であった。コンピュータゲームも携帯電話もなかった。遊びの多くは自然の中にあった。そして、黄色い三角テントのキャンプやハイキングが、レクリェーションの王道だった。
 学生時代は山岳部もワンゲルも部員がたくさんいて繁盛していた。1970年の勤労者の持ち物調査で、3割近くの若者達が登山靴を保有していた時代だ。山に登ることはそれなりにカッコウがよかった。

 そんな世代が60歳前後となって、年賀状に山、山登り、登山、山旅などという語句が踊るのは当然のことなのかもしれない。ただ、目的が健康、人生の充実、自己実現であって、冒険とかチャレンジなどというのはほとんどない。本来なら、そんなコンテンツが若者達の間で乱舞してこそ、活力のある健全な世の中だと思う。
 100年に一度の不況だとかで、暗い話ばかりだが、人は自然に出ると元気になる。そんな当たり前のテーゼがわかるライフスタイルが広がればと、年賀状を読み返してそう思った。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。