- 第236回 -  筆者 中村 達


『今年のアウトドアズと自然体験』

 100年に一度の不況だそうで、新年早々から暗い話ばかりが報道されている。
 そんな経済状況で今年のアウトドアズや自然体験活動は、どうなるのだろうか。
 欧米では、不況になるとアウトドアズが活発になる。しかし、基本的に国民のライフスタイルが違うので、日本も同じになるとは思えないが、「自然」へ向かう人々は確実に増えてくる。
 年末には冬型の気圧配置が強まって、雪が降りスキー場もそこそこの積雪があった。厳しい状況には変わりないが、それなりに入り込み客はあったようだ。ただ、スキー用品・用具の売れ行きは深刻な事態だそうだ。

 正月にフランスのアニマトゥール(animateur「時間を促進する指導者」)に関する論文を読んだ。それによると、フランスでは自然体験や野外教育を行う施設がおよそ3万数千あり、年間400万人の青少年を受け入れている。これが、フランスのヴァカンス制度を支える一翼を担っていて、さらに、自然体験を含むヴァカンスが、国家の政策としておこなわれ、指導者の育成や支援も、重要な施策として進められているのが重要なポイントだ。社会が発展すれば、あとは自由時間とヴァカンスの管理を産業にして、職業として成長させるという国家の理念がある。

 米国のアウトドアズは、いわば国是だ。「偉大なるアウトドアにおける荘厳さが今日のアメリカと、アメリカ人をつくる一翼を担ってきた。・・・中略・・・国としての信念をもつためには必要不可欠なものであると我々は認める。」(American Outdoors / President’s Commission on Americans Outdoors)とされている。サブプライムローン問題で、いまや米国経済はすっかり信用をなくした感があるが、ことアウトドアズと国立公園の保護に関しては、この国より優るところはない。

 結局、アウトドアズや自然体験活動の振興には、国家としての理念や政策が必要だ。
 また、先日TVでノーベル賞受賞者の先生たちが、重要なのは「自然」だと指摘し、自然は好奇心が萌芽するという趣旨の発言をされていた。とても印象的だった。
 不況になるとアウトドアズは盛んになるなどという受け身ではなく、しっかりした理念とか哲学をもって、この国の自然体験を考えなければ、とあらためてそう思った。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。