- 第232回 -  筆者 中村 達


『山の看板と道標』

 先日、ある国立公園で域内の道標や案内看板などのデザインを、いかに統一するかという会議があった。山は看板が至るところにあって、それも有名山岳地になるほど多く目につく。デザインや色に規格の統一があるわけでなく、てんでバラバラだ。管理する役所の縦割行政でデザインのコンセプトや大きさが異なる。外国の国立公園やアウトドアフィールドでは、看板類は必要最小限に抑えられているし、景観に配慮したデザインで、規格も統一されている。米国の国立公園やトレイルを歩いても、日本の山に比べると道標が非常に少ないので、心細くなってしまうほどだ。

 会議では、立て札や道標がないばっかりに、万が一の事故が発生した場合、管理者に責任が及ぶとの意見もあった。特に、危険箇所では「立入禁止」の看板が絶対に必要という。そうでもしないと責任が問われてしまいがちだ。看板や道標の数は、国民の自己責任の高さに反比例するのではないかと思ってしまう。

 看板や道標は、最小限の基本情報が記されているともいえる。山や峠の名称、標高や地名などが必要最小限の情報だ。地図をもって歩かない登山者やハイカーが多いので、道標の必要性は高いのは確かではある。地形図とコンパスを持って歩くのが基本中の基本だが、この基本がほとんど出来ていないのも問題だと思う。
 また、最近では、有名山岳になればなるほど、外国人の登山者が増えている。北アルプスの穂高岳や槍が岳などでは、日本語のほか、英語はもちろんハングル文字で表記された看板類をよく見かけるようになった。しかし、他の地域ではまだまだ日本語だけのところが多い。この国は、観光立国だそうなので、であるならば、自然豊かな国だからこそ、アウトドアフィールドでの国際化も必要だろう。これから作り変えるなら、少なくとも英文(アルファベット)表記も併記するべきだろう。山や地名は読み方が難しいのがしばしばで、アルファベットで書かれていれば、間違いも少なくなる。

 また、看板設置の予算についての論議もあった。ちっとした大きさになると数百万円というのを聞いて、驚きの声があがった。もっとリーズナブルに製作・設置する方法も模索すべきだろう。

 会議では、事務局が提示したデザイン案を論議した結果、ある首長が「これでいきましょう。当該地域は、すべてこのデザインで統一しましょう」という趣旨の発言をして、出席者も賛同したので、統一化が図られることになった。簡単そうなことだが、案外これが難しい。国の出先機関、役所、地権者、その他諸々の関係機関・団体などの複雑な利害関係があって、そうは簡単にいかないものだが、このスキームでは首長の英断があって、すんなり決まってしまった。

 アウトドアでの看板類は、これからは、単なる道しるべや地名の表記だけではない。看板にICチップやタグが埋め込まれることも想定されるし、携帯電話の高機能化によって、GPS対応の道標なども考えられる。詳細な地図情報が、看板や道標からも入手できることが可能な時代になる。ともあれ、山で目にする看板や道標は、この国の国民性そのものと思えて仕方がない。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。