- 第231回 -  筆者 中村 達


『北海道でフライフィッシング』

 10月の下旬、北海道の帯広でトレイルのシンポジウムが開催された。北海道を歩いて一周できるロングトレイルを作ろうという構想がある。その手始めとして、十勝地域で試行しようとスキームがスタートした。試行といっても、優に200kmはある長大なものだ。
 そこで市民や関係者にその構想とコンセプトを理解してもらおうと、シンポジウムとトレイルの一部を歩く、実験ウォーキングがおこなわれた。ともに大勢の参加者があり目的を果たして終了した。次回は2月に開催される予定だ。

 事前の準備会の折、せっかくだから全てが終わったあと、フライフィッシングがしたい、などとリクエストしてみた。以前から北海道に行くたびに、一度はロッドを振ってみたいと思っていた。しかし、どこでどうすればいいのか、さっぱりわからない。探せば、インフォメーションがあるのだろうが、すぐにわかるようなシステムは、私の知る限り整備されていない。かつてイボン・ショイナード氏が「日本には北海道があるじゃないか!」と私のインタビューにこえてくれたことがあった。だが、北海道がアウトドアランドを標榜する割には、新千歳でも、旭川でも、帯広の空港でもインフォメーションやサインの類はないに等しい。

 そんな事情があるので、ともかく「フライがしたいのだけれど・・・」などと無理を言ってみた。すると、その場に居合わせたKさんが、私も渓流釣りをやりますので、是非ご一緒しましょうということになった。あとでK氏はプロ級の腕前と知った。
 北海道の渓流事情がほとんどわからないので、K氏にメールでたずねたが、氏は餌かテンカラ釣りが専門なので、フライのプロを紹介してくれるという。結果、たくさんの人たちを介して、プロガイドのN氏からメールがきた。私の質問に、ロッドは4番で8~9フィート前後。スペアのロッドは持参しますからご心配なく、と書かれていた。フライはドライでOK、カディスよりソラックスがいい、ともアドバイスもいただいた。また、K氏からは、渓相がわかるようにと、画像も送られてきた。すこし大げさになってきた。

 当日、トレイルに関するプログラムが全て終了し、いよいよフィッシングに出かけることなった。いい訳だが、この日風邪気味で微熱もあった。行きたい、やめたい、の気持ちは半々だったが、全ての準備が整っているので、いまさらヤメ!なんていえる状況ではなくなっていた。

 同行してくれる釣り師のKさん。プロガイドのNさんとも合流した。それに、釣り場まで送迎してくれるスタッフが2名、写真担当が1名。私も含めて総勢6名となった。釣りに行きたいという一言で、こんなにたくさんの人のお世話になってしまうなどとは、想像もしなかった。「おもてなしの北海道」といわれるが、随分お世話をおかけしてしまった。

 目的の渓流に着いた。プロガイドのNさんは、ロッドを持って立っているだけで様になる。釣り師のKさんも決まっている。北海道は熊が出るからと、ベストに鈴をつけた格好の私が少々恥ずかしい。それでも「熊出ます?」と、Nさんにたずねると、「出ます」。Kさんも「いっぱいいます」と、涼しい顔だ。これで釣れなかったらどうしよう。カッコ悪いなあ、などと自問しながら川に降り立った。

 Nさんが、「さあやってください」と、水面を指差した。少し緊張。が一振りで、少しは気が楽になってきた。しばらくして「出ませんね!」と私。「出ないですね、反応がないですね」とNさん。
 場所を変えて今度はNさんもロッドを振りはじめた。なかなか反応がない。小1時間も過ぎただろうか。Nさんが申し訳なさそうに、「おかしいなぁ、出ませんね!」と、遠来の私に気遣ってくれる。Kさんも全くダメな様子。なんとなく全員が焦り出してきた。少したって、ようやく私のフライに反応し始めた。ニジマスのようだ。フックにうまく引っかからず、5回もバラしてしまった。1度はNさんの前で、手前まで引き上げながら、バラしてしまうという体たらくだ。

 秋の日は落ちるのが早い。北海道だとなおさら早いように感じた。ようやくKさんがニジマスを釣りあげた。ニッコリである。そうこうしていくうちに、Nさんもニジマスをあげた。焦ってきた。KさんもNさんも、私がまだ釣れていないので、何とかできないかと考えている風に見えた。こればかりはどうしようもない。

 周囲はさらに暗くなってきた。開けたところで、Nさんが「ライズしていますよ、どうぞ」と指差した。何度か試してみたが、反応がない。諦めにも似た空気が漂い、KさんもNさんも、もと来た踏み跡を戻ろうとしたとき、ようやくヒットした。Nさんがやや興奮気味に「アメマスです。形いいですね!」と言ってくれた。
 風邪気味なのも、すっかり忘れてしまっていた。何とか格好がついて、恥をかかずにすんだ。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。