− 第223回 −  筆者 中村 達


『真夏の八方尾根ハイキング』

 白馬・八方尾根を歩いてきた。冬の八方尾根は国内最長のダウンヒルコースとして知られ、長野冬季オリンピックでは滑降会場となって、環境保護と絡んで話題になった。最近では日本人スキーヤーの減少と反比例して、外国人、なかでも大勢のオーストリア人が押し寄せている。
 夏の八方尾根は、雲上のハイキングが気軽にできるとあって、大勢の観光客がやってくる。ゴンドラとリフトを2基乗り継げば、1,820mの第一ケルンまで、労せずにあがることができる。そこからは、整備された木道と登山道を1時間少々歩くと、2,060mの八方池に着く。晴れていれば、八方池からは白馬鑓が岳、杓子岳、白馬岳が目の前に迫り、訪れた人たちを圧倒する。足元には安曇野盆地が広がり、いつまで眺めていてもこの風景は飽きることがない。

 この日も大勢の観光客が訪れていた。あいかわらずツアーの中高年団体客が目立つが、ファミリーやちらほらと若者たちのグループも登りに来ていた。一昔前と比べると、服装もそれなりにアウトドア風になってきているし、足元もサンダル履きはほとんど見られない。デイパックにウォーキングシューズかトレッキングシューズが多いようだ。
 マナーも良くなってきているようで、ゴミも落ちていなかった。多くの人たちが嬉々として山を楽しむのは、すばらしいことだと思う。たとえ短いハイキングであっても、自然体験のすばらしさが、どこかで伝播すればアウトドアズももっと広がる可能性がある。

 八方池でガスの切れ間に時折頂稜部がのぞく白馬鑓を眺めながら昼食をとった。八方池の周辺には大勢の観光客が、お弁当を広げたり、記念写真の撮影に興じていた。
 私が腰を下ろしていたすぐ前の3人連れが、昼食を食べ終え歩き始めた。その中のひとりが、何度も振り返り私を見ている。知っている人かと思ったが、思い当たる節はない。すると、「あんな靴がいいんだね」と私のトレッキングシューズを指差して、仲間に話しかけた。彼の足元をみると、トレッキングシューズ風ではあったが、似て非なるもののように見えた。山の装備選びはこのようにして学習するのだと、ふと私の新米の頃を思い出した。
 私たちも昼食を終え、景色を堪能しながら下山した。ゴンドラの山麓駅から旅館・ホテル街を通って、駐車場へアスファルト道を歩いていると、足元からポコポコという音が鳴り出した。靴底に石ころでも詰まったのかと思い、トレッキングシューズを見ると、ソールが剥がれていた。山ではよく見る光景だが、まさか自分のシューズがそうなるとは夢想だにしなかった。縦走中に剥がれでもしたらと、冷やりとした。と同時に、八方池で「あんな靴がいいんだね」と指差されたこと思い出した。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。