− 第219回 −  筆者 中村 達


『レンゲツツジと観光と』

 レンゲツツジの群落で有名な地蔵峠に出かけてきた。群馬県と長野県のほぼ県境にあるこの峠は、標高がおよそ1,700mあり冬はスキー場となる。群馬県の県花であるレンゲツツジは、天然記念物の指定を受けている。ゲレンデのリフトであがると、レンゲツツジが咲き乱れる群生地をみることができる。
 6月の下旬から7月の上旬にかけて、この付近ではレンゲツツジの開花が最盛期をむかえ、各地から観光客が大挙して訪れる。リフト代が惜しいというわけでもないのだが、地元のインタープリターのガイドで歩いて登ることになった。ひと汗かくと、柵で囲ってあるツツジ園に着いた。ツツジ平というのだそうだ。湯の丸山の裾野まで見渡す限り、朱色のレンゲツツジが咲き乱れていた。その数60万株と説明を受けた。圧巻だった。
 すでに5時をまわっていたので観光客はほとんどいなくなって、数人がブラブラと歩いているだけだった。すると、インタープリターのSさんが、「ほら、あそこでしゃがんでいる人、ビニールの袋持っているでしょう。山菜を採っているのかどうか?盗掘も多いんです。」と、顔を曇らせた。聞いてみると、様々な山野草が盗掘にあっているのだそうだ。天然記念物であっても、希少種であっても、毒性があってもお構いなしなのだ。
 そして、私たちが歩いているツツジ平も柵で囲ってあるのだが、出入りは自由で、レンゲツツジを縫うように踏み跡が縦横にできている。トレースはすでに踏み固められているので、レンゲツツジの根は死滅していると教えられた。大勢の観光客が歩くのだから、たまったものではない。「どう思います?ここに入ることがいいのかどうか?」と言われても、すでに入ってしまっているので、困ってしまった。いけないことをしたようで、すぐに柵の外に出た。だがそのとおりで、柵の外からでも群生は十分に見られるのだから、規制すればいいのではないか。さらに、何らかの保全費を徴収すればいいと思う。

 ツツジ平も観光と自然保護の狭間で揺れているのだろう。地蔵峠には、ソフトクリームや蕎麦などの看板やノボリが乱立していた。自然景観とはとてもそぐわない風景だが、日本の観光地はどこも似たような感じではある。
 だが、ツツジ平から降りてきて、インタープリターにすすめられるままにソフトクリームを食べてみると、これが美味しい。その勢いでクレープまで食べてしまった。ノボリや看板のことは、すっかり頭から忘れ去っていた。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。