- 第215回 -  筆者 中村 達


『山の登りと達成感』

 自然体験活動の必要不可欠の要素のひとつは、達成感だと思う。その点、山登りは頂上に立てばともかく達成感がある。満足感も感動も同時にあることが多い。どんなに低い山でも、無名の山であっても、歩いて、汗をかいて登れば、それなりに達成感がある。それは子どもたちでも、若者でも、オジサンでも、オバサンでも同じだと思う。
 以前にもこのコラム書いたが、自宅の近くに三上山、通称「近江富士」という低山がある。
 標高は432mしかないが、山容は三角錐のピラミッド型をしていて、どこから見てもその位置がよく分かる、まさにふるさと版の富士山である。

 その近江富士には、暇があれば登りに出かけている。先日も、ふと思いついて登ってきた。登り40分。下り30分というのが、私の標準的なタイムだ。急な登りだが、ひと汗かくと山頂に着く。わずか40分の登山だが、すこぶる達成感がある。何度登っても、いつ来ても満足感があるのが不思議だ。山頂はこのうえなく眺望がいい。琵琶湖の向こうに比叡の山々が見え、その左には比良山系の連山が広がる。
 山頂には広場があって、いつも何組かのグループや家族連れがお弁当を広げている。比較的有名な山だけあって、平日でも京阪神あたりから、特に中高年の登山グループが登りに来ているようだ。
 私のように「気が向けば型」は少数で、「観光型」「行事型」「習慣型」そして「トレーニング型」が多いようだ。「行事型」は学校の遠足や行事として、「習慣型」は登ることがライフスタイルに組み入れられている人たちのこと。そして、「トレーニング型」は、体力づくりや目的を達成するために、この山に訓練に来ている人のこと。もちろん「ファミリーレジャー型」「デート型」など類型すればバリエーションはもっともっとある。

 この日、地元から来た「トレーニング型」の杉江さんは、現在日本百名山を踏破中で、すでに67山を登り終えた。70歳までには達成するという目標がある。近々には九州にまで足をのぼすのだそうだ。大津市からきた小5の二人は、「ファミリーレジャー型」で、家族より一足早く山頂に着いた。標高こそ低いが、山頂で出会う人たちの表情は、等しく笑顔が広がっている。達成感と満足感が交錯しているのだ。

 先日、久しぶりに京都の県境までフライフィッシングに出かけた。人の気配が全くない沢筋をロッドを振りながら、丸一日歩き通したが、釣果はさっぱりだった。新緑が美しく、自然豊かなところでのフィッシングであったが、釣れなかったということで、達成感も満足感もなかった。これが、その沢をつめて源頭部を抜け、稜線から山頂に立てば、きっと少しは達成感があったのだろう。
 疲労感と虚脱感だけが残ったのが、何んとも不思議だった。もっとも、次に出かける口実だけはひらめいた。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。