− 第212回 −  筆者 中村 達


『アウトドアの専門店』

 ゴールデンウィークの前になると、そわそわしてくる。ワクワクは、年のせいかそれほどない。ともかく、毎年のようにこの時季には山岳スキーに出かかけている。今年も滑りに行くので、暇を見つけては少しずつ準備をしている。ほとんどのものは揃っているのだが、消耗品は買い足さねばならない。ガスボンベ、ワックス、非常食、日焼け止めなど細々したものばかりだが、準備するのもそれなりに楽しい。昔、山岳部の先輩が、「登山は準備から始まっている」と言ったことが、いまも記憶に残っている。
 この種のものは、登山やアウトドアの専門店に行けば全て揃うのだが、最近は専門店が減ってきている。まして、私が住んでいる滋賀県などでは、スポーツ量販店はあっても専門店は少ない。量販店でもそれなりにラインナップはされてはいるものの、こったものはなかなか見つからない。靴紐を一つ買うのに、京都まで出かけたこともあった。そのうえ、スタッフがアルバイトであることが多いので、質問にまともに答えてくれたためしはない。

 もっとも専門店でもよく似た経験がある。やはりアルバイトスタッフが多い店は、どうしてもそうなる。その昔、登山の専門店といえば、どの街にもあった。勤労青少年のおよそ3割が、登山靴を持っていた(旧経済企画庁調査)1970年頃のことだ。
 この頃、専門店の店主は、そこそこ有名な登山家であったり、街の山岳会のリーダーであったりした。そのため、顧客の登山指導や地域の情報拠点という役割も担っていた。山岳部だけでなく、ワンゲルやハイキングクラブ、ユースホステルクラブ、それにボーイスカウトなども顔を見せていた。新製品や外国製の登山用具についても、いろいろと講釈を聞くことができた。学校や勤務が終わると三々五々に、何となく贔屓の専門店に集まってきて、そのあとは、近くの喫茶店で登山談義をするというのが、お決まりのパターンだった。
 いまは、そんな姿はほとんど見かけなくなった。スタッフは若いアルバイトで、お客の多くは中高年。自然体験の少ない若者達が、登山やアウトドア用品の説明をするのは、少しつらいものがある。先日のこと、神田の専門店で70歳ぐらいだろうか男性が、ウェアを物色していた。そこへ女性のスタッフがやってきて、「どんなリュックサックをお持ちですか?コーディネートしてみましょう」ときた。思わず笑ってしまった。確かにコーディネートも大事なことではある。
 登山や自然体験の豊かなスタッフが応対すれば、少しはましなトークになったのではないか。私のようにアウトドア用品を、ネットで買うことも少なくなるのかも知れない。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。