- 第209回 -  筆者 中村 達


『びわ湖バレイスキー場の風景』

 琵琶湖の西岸に沿って南北に連なる標高1,000mの比良山系に、びわ湖バレイスキー場がある。いま、全国的にスキー場不況といっていいだろう。スキー人口の減少に歯止めがかからないし、スキー場の経営は厳しさを増している。そんな中で、このスキー場は、今シーズン、多額の投資をして6人乗りのゴンドラから、定員120人のロープウェイに架け替えた。元気のいいスキー場の数少ない見本だろう。
 以前は山麓から山頂まで20分ほどかかったが、新設されたロープウェイは僅か3分でのぼってしまう。京都市内からでも1時間ほどで、山上に立つことができるようになった。私の自宅からでもほぼ同じ時間で行ける。
 関西ではなじみの深いスキー場だが、首都圏ではあまり知られていないようだ。このスキー場の特徴は、なんと言っても京都や大阪といった大都市圏に近く、スケールもそれなりに大きい。全国的に見ても、大都市圏に隣接し、なおかつ標高が1,000m以上あるスキー場は珍しい。

 自宅から仕事場まで、雪をかぶった比良山系を見ながら通っているのだが、ようやくシーズンも終わりに近づいたある日、時間を見つけて滑りに出かけた。自宅を9時に出て10時にはロープウェイの山頂駅に立った。山麓は桜の開花が始まろうとしていたが、ここはまだたっぷり雪があった。なんとも不思議な気分だった。

 この日は平日だから入り込み客も少ないだろと思っていたが、春休みとあってファミリースキーヤーも目に付いた。こんなに手近になったのだから、遠くにまで足を延ばさずとも十分楽しむことができると思う。スキーは、用具代はともかく、交通費や宿泊費などがバカにならない。だからファミリーで遠出でかけると大出費となり、敬遠されているのだが、このような手近なところででも十分楽しめるのでうまく利用すればいい。

 リフトに乗ると同乗したスキーヤーが話しかけてきた。最初に話したのは、62歳のスキーヤーだった。去年からスキーを始めたのだそうだ。定年後、何かしないといけないと思ったのがきっかけで、時間があれば通っているという。次に乗り合わせたのは、67歳の男性だった。シーズン券を買って毎日のように滑りに来ているのだそうだ。下りのロープウェイで、私の隣に座った男性も62歳で、42歳からスキーを始め、すっかりはまっているのだそうだ。そのほか、いまはバイクに凝っているという。「ガツガツしないで、ゆっくり生きていくのがいいですよ」と、にこやかに微笑んだ横顔が印象的だった。
 若いスノーボーダーやスキーヤーもそれなりに滑りに来ていたのだが、やはり全体的には中高年者が多かった。元気なお年よりが多い。『定年後の8万時間に挑む』(加藤 仁著 文春新書)という新刊本を読んだが、このスキー場にも自由時間を楽しむ中高年者の姿があった。高齢社会の風景をスキー場で見た。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。