− 第208回 −  筆者 中村 達


『アウトドアのモノローグ フォールディングナイフ』

 ナイフが使えない子どもが多くなった、などとよく言われる。よくよく考えてみれば大人だってろくに使えたものではない。少なくとも日常生活のなかで、ナイフを使うシーンはほとんどない。だから、いきなりうまく使いこなせる道理はない。包丁でさえない家庭もある。荷物の開梱などではカッターナイフを使うことが多いが、いわゆるアウトドア用のナイフとは違う。
 ここでいうアウトドア用ナイフとは、フォールディングナイフのことだ。フォールディングナイフは折りたためて携行に便利で、何かと役にたつはずであるが、アウトドアでも使うことは少ない。正確には少なくなってきた。例えば、登山などでの調理はドライフーズやレトルト食品の登場で、生の野菜などを切り刻む必要がなくなった。もっとも、狩猟では解体作業の必需品だが、国内でハンティングをしている人はごく少数だ。さらに、子どもたちにいたっては、少なくとも国内では皆無に等しいと思う。
 だからアウトドア用のナイフの需要も落ちているようだ。その上、テロ対策で機内持ち込みが大変厳しくチェックされているために、気軽にお土産にでも、といかなくなった。そのせいか売り上げが落ちていると、アウトドアショップのスタッフが教えてくれた。
 私もキーホルダー代わりのツールセットが空港の検査で引っかかり、取り上げられた経験がある。

 渓流釣りでも、私の場合はほとんどがキャッチ&リリースなので、魚を絞めることはないし、ここ何年かは使っていない。ベストに小さなナイフを入れてはいるが、取り出したことはないように思う。
 それでも、登山や釣りに使うこともあるだろうと、衝動的にそれなりに買い求めたが、ほとんどが机の引き出しに仕舞いこんだままだ。結局、よく使っているのがスイス製のアーミーナイフで、その中でも使用頻度が最も多いのが、ナイフよりワインの栓抜きだ。ナイフは包丁代わりで、せいぜいチーズやサラミソーセージをスライスするときに使う程度だ。

 サバイバル時に・・・、アウトドアでは・・・、いざという時に・・・などなどとナイフを使うシーンは想像できるものの、あらゆる食材と生活財の利便性と合理性が高まって、結局は使うシーンは、ほとんどなくなったということだろう。必要がなくなってきた。
 鉛筆だってナイフで削る必要は、いまやない。鉛筆削り器が電動でも手動でも数多くあるし、私も何十年もナイフで削ったことはない。この先もきっとないように思う。
 「ナイフが使えなくてもいい」は、「マッチが擦れなくてもいい」とよく似たお話で、時代が道具の基本を変えてしまっているのかもしれない。が、これがいいのか悪いのか、本当のところはよく分からない。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。