− 第203回 −  筆者 中村 達


『野生生物との共存』

 ウォーキングがブームだ。自宅の近辺でも歩いている人が目につく。もちろん中高年が大半だが、健康のためにはいいようだ。それにつれ、ウォーキングシューズもよく売れている。アウトドア用のシューズの低調さを尻目に、毎年10%以上の伸びを示していて絶好調だ。
 私もこの正月から歩き始めた。雨の日はともかく、いつまで続くか自信はないが、できる限り歩きたいと思っている。歩行距離はいい加減だが、歩数としては10,000歩を目標にしている。歩く時間帯はどうしても夜になるが、多くの人たちとすれ違う。都会ならいざしらず、滋賀県の田舎でもウォーキング愛好者が多いのには驚く。


 休日には近くの公園に足をのばすことが多い。公園といっても428haもある広大なものだ。公園内は芝生広場のほかはコナラ、楓などの木々に覆われており植生も豊かで、四季それぞれが美しく飽きることがない。遊歩道やサイクリングロードなども整備されていて、長い距離を歩くことができる。
 また、周辺は標高300m程度の低山に囲まれていて、この低山を稜線に沿って一周するには、丸一日はかかってしまうほどの距離がある。
 ところが、近頃はこの公園の様子がおかしい。獣害がひどいのだ。芝生がいたるところで掘り返され、遊歩道の脇は餌を漁ったあとが延々と続いている。花壇はほとんど全てが無残にも掘り起こされて、耕した畑のような有様だ。公園全体がイノシシの天国になってしまっている。植物園はフェンスで囲まれ、夜間は電気が流されているが、さして効果はないのではと思う。管理人に話を聞くと、推定でおよそ50頭のイノシシが生息しているらしい。イノシシたちは、昼間は羊歯の葉の下やススキをトンネル状にした棲家で休んで、夜間に行動するという。

イノシシに掘り起こされた芝生

電気柵 こんなところが棲家らしい

 撒餌をして罠を仕掛けても、なかなかかからないのだそうだ。簡単に捕まえられるのではと素人には思えるのだが、かなり難しいらしい。猟師に駆除してもらい、猪鍋でもと不遜なことを考えてしまいがちだが、この地域は鳥獣保護地域でそれもままならない。

 私の知人が京都北山の山中で暮らしていて、狩猟が趣味のひとつだ。本職は神主だが、氏の説によるとイネや野菜を食い荒らす獣は、神への捧げものを横取りするけしからん輩なので、散弾銃で狩猟してもいいのだそうだ。ちょっと荒っぽいお話のように思うが、説得力がなくはない。ただ、最近では猟師の高齢化が進み、鹿やイノシシなどを追いかけるのが、体力的に難しくなってきているのだそうだ。だから顔を会わすたびに、狩猟の免許をとるように言われるのだが・・・。

 大都会では考えられないが、獣害に悩まされているところは、全国的に広がっている。猿、イノシシ、鹿、熊などが里に下りてきて、人間の領域まで入ってきている。人間が彼らの領域を侵し、森林の伐採などで野生生物の生活圏が狭められたことも原因だろう。さらに、地球の温暖化や気候の異変で、山での食料が不足しがちなのも大きい。
 頭の中で原因をいろいろ考えるのは易しいが、実際にイノシシに掘り返された真新しい跡を見ると、野生生物とどのように共生すればいいのか、答えはなかなか見出せない。
 高齢化が進み、限界集落では野生生物の方が縄張りは広く、もはや人間の手に負えない地域もある。こういう現実を子どもたちにしっかり見せる、教えることも自然体験活動の基本だと、公園を歩くたびに思ってしまうのだ。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。