− 第200回 −  筆者 中村 達


『200回目のアウトドアあれこれ』

自然体験のデータがほしい
 ことし何度か参加したシンポジウムで、自然体験活動を活発にするには、何より母親の理解が必要で、そのためには、自然体験による効果をわかりやすく、データで示す必要があるとお話した。極端な話、自然体験を経験した子どもは、東大に合格する確率が高いとなると、母親たちは競って子ども達を自然に連れ出すかもしれない。
 もちろんそんなデータはないが、このような研究や調査を行なう必要があるのではと思う。東大の話は冗談としても、自然体験が子どもたちにどのような影響を与えるかという、時系列のデータは非常に少ないように思う。子ども達だけでなく、大人のデータも少ないようだ。例えば、森に入ると血圧値が下がると言われているが、研究は端緒についたばかりだ。フィットンチッドがいいなどというのも、本当のところは良く分からない、と何かの本で読んだ。私たちが子どもには自然体験が重要だ、おそらく間違いはないのだが、どのような効果があるか、人生にどんないい結果をもたらすかは不明だ。少なくとも、科学的なデータはほとんどないように思う。

 どうやら、私たち日本人はデータが好きで、統計が示されると納得しがちだ。データがないと納得はしない。ところが、欧米などでは、自然体験などといわなくても、例えば「サマーキャンプ」などは年中行事に組み込まれているようだし、家族で自然のなかで過ごすのは、何よりも楽しく理屈はない。別段、教育的成果を考えてのことでもない。家族で自然の中で過ごすことがライフスタイルに組み込まれれば、自然体験の必要性を声高に叫ぶ必要はない。


中高年だけが山へ
 いま、この国で自然体験、つまりアウトドアズを活発に行なっている中心層は、中高年者だ。この大部分が登山や山歩きである。中高年登山の定義は定かではないが、年齢的には50〜70歳代だといわれている。最近ではこの年齢もやや上昇しつつある。中高年者に登山が人気の理由は、健康のためにいい。それに、自然が手軽に味わえ、非日常の空間が体験できる。仲間作りもできるなど、納得できる動機がある。ただ、中高年登山も陰りが見え始め、山を降りて、山旅や山麓歩きにシフトをしている。
 一方で、山で若者たちの姿を見かけるが少数だ。山岳雑誌などでは増加しているような記事も見かけるが、まだまだ絶対数が少ない。ご承知のとおり、山登りがなぜ若者たちに人気がないかといえば、一口に言えば「キツイ、キタナイ、キケン」の3Kだからだ。中には、あの中高年登山ファッションが駄目、という声も聞いたことがある。あの登山スタイルがダサいから。
 しかし、人気ブランドのアウトドアウェアはよく売れている。特に欧米の人気ブランドは、若者たちのファッションアイテムとなっている。中高年登山者が選ぶものとは少しカテゴリーが違う。若者たちにアウトドアファッションブランドは人気だが、そこにはフィールドは見えてこない。また、スポーツウェアというジャンルの中で、アウトドアウェアはメーカーの出荷額が最も大きいが、他のスポーツと根本的に違うところは、アクティヴィティがついてきていない点だろう。アウトドアファッションの先に、フィールドは見えていない。

スキーの人気回復は
 今シーズンは比較的雪に恵まれているので、スキー場もホッと一息というところだが、現実は厳しい。スキー人口は、良く見積もっても最盛期の50%以下ではないかと思えるし、スキー場の身売り、廃業・廃止などが相次いでいる。バブルの最盛期には、全国に700ものスキー場が乱立したが、いまは、400台に減少しているし、これからも廃業は進むと予測されている。
 スキーは、冬季における最良のアウトドアアクティヴィティのひとつだ。しかし、スキーはあまりにもコストがかかる。スキーの用具代、ウェア代、リフト代、交通費、宿泊費、食事代など、2泊3日で楽しもうとすれば、実費だけでも4〜5万円は必要だ。
 この国のスキー人口の山は40歳代である。それが、10歳代に向けて下降しているのが、大きな問題だ。10歳代でスキーをしなければ、20歳代ではほとんど継続はしない。なぜなら、上達するのに時間がいるし、いまさら転倒して恥をさらしたくないという心理が作用するからだ。
 米国のアウトドアズマンに、日本ではゲレンデスキーが中心だというと、「我々はバックカントリーだ。なぜ日本人はそんなに金のかかるゲレンデスキーをするのだ。やはり金持ちだ!」と皮肉を言われたことがあった。

 かつて修学旅行といえば、スキーが主流という時代があった。しかし、いまではすっかり人気がない。ゲレンデでも偏差値教育のような指導がされたし、人出不足でアルバイトの学生が指導していて、ヒンシュクをかったという話も数多く聞く。文部科学省の担当官は、スキー修学旅行がスキー嫌いの子どもたちを作ったと語っていた。

 そんな事情があるものの、今シーズンは総じてスキーは好調だそうだ。なんとかうまく上昇気流に乗ってくれればと願う。それには、少なくとも子どもたちや学生には、思い切った激安のスキーシステムが必要だ。少しの割引ではなく、家族連れなら、子どもたちは食事は無料、リフト代はタダ。講習も格安などといった、スキー業界あげての構造的なサービス体制の構築が必要だ。この先、彼らがスキーに帰ってくれば、回収できる。


入口と出口
 この国の自然体験活動、アウトドアライフは欧米のそれと比べて脆弱だ。一時、なんとなくアウトドアブームがあったが、いまやその勢いはない。地球環境問題や子どもたちの自然体験活動を考えるとき、大人たちにアウトドアスタイルがあるとないのでは、立ち位置が違う。省エネやエコロジカルな生活が求められる時代になったが、だからこそアウトドアライフスタイルが重要だ。自然や環境の大切さは、自然に入ってこそ体感できる。体で覚えることが出来る。
 アウトドアズは単なるレジャー行為だけではない。アクティヴィティだけではない。アウトドアという言葉が入ってきて久しく、あらゆるギアやウェアは簡単に手に入るようになった。RVもSUVに進化し、ともかくホームセンターのアウトドアコーナーでは、一年中バーベキュー用品が並び、有名ブランドもうずたかく積まれ、欧米でもお目にかかれない光景が展開されている。しかし、そこにはライフスタイルがともなったアウトドアズは見出せないのが、私の感想だ。

 アウトドアズの有用性についてここで述べるつもりはないが、普及させていくには子どもの頃からの自然体験をしっかりおこなうこと。とくに自然体験活動は国家や、しかるべき機関が戦略的に取り組むことも必要だろう。指導者の育成やフィールドの基盤整備など課題は多いが、いまやらないと、この先永遠にできないような気がする。子どもたちの自然体験は、アウトドアズの入口だ。この入口がないと、例えば人気のアウトドアファッションも、フィールドに出ることなく終わってしまう。
 そして、出口として、大人たちが安心して自然を楽しめるフィールドの基盤整備も必要だ。これは土木工事の類ではなく、ソフトウェアの構築だ。インターネットや携帯電話を活用した地図作りや、ガイドシステム。さらには自然学校でのインタープリターの育成など、数多くの仕事がある。
 2008年はどんな年になるか。子どもたち自然体験の機会が増えないか、アウトドアズを少しでも普及できないか、などと願いながら「アウトドアあれこれ」も200回となった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。