− 第195回 −  筆者 中村 達


『高島トレイル』が開通

 琵琶湖の北西部に、全長80kmの「中央分水嶺高島トレイル」が完成した。このあたりは、日本海に面する地域としてはもっとも標高が低く、北西の風が吹き抜ける。風は琵琶湖の水蒸気をたっぷり吸い込んで、伊吹山や霊仙山に突き当たり、雨や雪に変わる。関が原の天気が不順なのは、そのせいだと聞いた。
高島トレイル http://takashima-city.jp/takashima/doc/0704/0427_bunruireipanfu.pdf

 そんな風が抜ける自然環境にあるだけに、高島トレイルは、標高がほぼ800mと低いものの植生は大変豊かだ。ブナやミズナラの原生林がトレイルの全域でみられる。
 この高島トレイルは、古道や登山道などを活かしながら、自然環境の保全と地域の活性化に取り組もうと整備された。トレイルからは左に若狭湾、右に琵琶湖が眼下に広がり、まさに中央分水嶺の地勢的な成り立ちが、手に取るようにわかる。

 若者達は山に登らなくなったし、中高年の登山ブームも沈静化してきていることは、登山人口の推移など、各種の統計からも明らかだ。そんな中で、いま、あえてロングトレイルの意味は大きいと思う。
 この国のアウトドアズは、歩く旅にニーズが変化してきているように考えている。団塊の世代が山に登るのではないかと期待するむきもあったが、当てははずれそうだ。山を登るにはそれなりのスキルが必要だし、できれば仲間もほしいところだが、現実はそうもいかないことが多い。しかし、この世代をはじめとする中高年層の自然指向は強いし、旅はもっともやってみたいアウトドアアクティビティだ。だから「歩く旅」というコンセプトが生まれる必然があった。
 根底には、健康や癒し、それにコミュニケーションといった願望がある。だから、この世代に、歩くステージを整備し提供する意味は大きい。そして、この「歩く旅」には、単にひとつの山を登るだけでなく、その道が長く、遥か彼方にゴールがあるという目標設定も遊び心として、またモチベーションとして必要だろう。
 さらにもうひとつ、子ども達、若者達に自然を体験させること、つまり、山を歩かせることも重要だ。この国の68%は山岳丘陵地帯だ。地勢からアウトドアアクティビティは山歩きや、トレッキングを抜きには考えられない。トレイルで出会う数多くの峠や古道で、歴史の息吹を感じてくれれば大きな意義がある。この高島トレイルで長い距離を歩き、ひとりひとりが物語を作ってくれればいい。トレイル上に小さなキャンプサイトでもできれば、バックパッキングのステージとしても面白い。

 子ども達、若者達がこのようなロングトレイルで、自然に触れてくれる機会が増えれば、この国のアウトドアズも明るい。
 また、トレイルは地域の活性化という意味を持つのだろうが、トレイルは決して一直のラインだけでなく、山麓や里山の自然と人々の生活に触れ、人と自然のありかたを学ぶ複層的な要素もある。このことについては、いずれ触れてみたいと思う。

 この日、あいにくの雨空だったが、一般募集で集まった多くの参加者と一緒に、整備された高島トレイルの一部を歩いた。参加者のほとんどが中高年者であったが、いずれ、このトレイルを彼らの孫や、親戚の子ども達、近所の子ども達を引き連れて歩いてくれればと思う。
 こんなロングトレイルが各地に整備され、子ども達が家族で、若者達が仲間とともに歩いてくれれば、日本のアウトドアズは確実に変っていくだろう。そう願っている。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。