− 第194回 −  筆者 中村 達


『近くの山で見た光景』

 滋賀の田舎に住んでいるので、近くには自然が多い。車で10分も走れば、山の裾野に行き着ける。このあたりの山は、せいぜい600m未満の低山だが、自治体などが登山道を整備しているので、歩きやすい。
 よく登りに出かけるのがムカデ伝説の三上山だ。別名近江富士と呼ばれ、標高は432mと低いものの、山頂はすこぶる見晴らしがいい。眼下に近江平野が広がり、びわ湖の向こうに比叡山、比良山系などが見渡せる。せいぜい40〜50分も歩けば山頂に立てるが、急な登りなのでひと汗かく。何より、低山というのに、何度登っても達成感があるのが不思議だ。関西では良く知られている山なので、平日でも中高年のハイキング客が団体で登りに来ている。

 日曜日の昼前、思い立って登りに出かけた。何度となく登りに出かけてはいるが、行く度に表情が違うのが面白い。三上山の周辺には住宅地が広がっているが、こんな山でもイノシシの食害がひどいようだ。イノシシが田畑を荒らさないよう、山麓は長大なフェンスで囲われている。こんな光景が全国の里山で見られ、まるで人間がフェンスで守られているようで、なんとも具合が悪い。登山道のあちらこちらに、イノシシが掘り返した跡があった。
 そんな三上山だが、この日も大勢の中高年者に混じって、何組ものファミリーハイカーに出会った。中高年のハイカーは、ひたすら下を向いて、何も話さずに登っていることが多いようだが、ファミリーはにぎやかだ。元気な子どもたちの声が、森の中を木霊していた。自然の中に入ると子どもたちの表情が変化する。歩を進めるたびに、確実に山頂に近づくし、見える風景も変化する。そして、山頂に立てば達成感がからだを覆う。

 山頂で父親がお湯を沸かして、カップヌードルに注いだ。食べるということが当たり前に見えないのが、この瞬間かもしれない。お弁当と温かいヌードルを見つめる子どもたちの表情は、何ものにもかえがたいような気がする。そして、子ども達にとっては頼りがいのある、お父さんに見える。自然の中では、父親は立派に映る。
 こんな光景が、日常生活のすぐ隣で見られた秋の一日だった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。