- 第188回 -  筆者 中村 達


『若者の登山靴の保有率』

 興味深いデータを見つけた、旧経済企画庁の「独身労働者の消費生活」1969年版、独身勤労者(20~24歳)の耐久消費財保有率である。それによると、登山靴は男性で28.2%、女性でも22.9%が保有していた。平均すると26%だから、この世代では4人に一人以上が登山靴を持っていたことになる。男性だけならほぼ3人に一人弱といったところだ。
 登山靴を保有しているということは、程度の差こそあれ山に若者達が出かけていた、登っていた証左だ。現在、これと同じ調査は行われていないようなので、比較は出来ないし確かなデータはないが、おそらくこの世代の登山靴の保有率は、よく見ても1%にも満たないのではと推測する。
 レイチェル・カーソンの研究家の上遠恵子さんが、「若いときは、遊びといったら登山ぐらいしかなかった」と対談で言っておられたのを思い出した。いまから40年ほど前は、この国も山登りが大変盛んだったことが推測できる。「OUTDOOR」ということばが、まだ、野外の遊びとか、ライフスタイルとして使われていなかった時代である。1969年といえば私が初めてカラコルムに出かけた年であり、大阪万博の1年前だった。
 ともかく戦後の登山ブームが若者達の間で沸き起こっていた。私が高校を卒業した時、クラス有志の卒業記念旅行?は、2泊3日の京都北山登山だった。確か20数名が参加したように記憶している。そして、参加者の大半がキャラバンシューズや登山靴を履いていた。
 遊びが少なかったといえばそれまでだが、少なくとも多くの若者達が自然で遊んでいたのは確かだ。ちなみに、ラジオの保有率は53%、TVは32%だがこれは白黒TVで、カラーTVはわずか2.1%だった。
 一方、スキー用品の保有率は男性が24.6%、女性が17.9%で、平均するとこの世代では21%が保有していたことになる。スキーもこのあたりから爆発的なブームになったので、こののち、保有率はもっと高くなったと思われる。1980年代の後半から1990年代の前半にかけて、空前のスキーブームが起こった。スキー用品の出荷額が3,500億円に達した年もあった。いまは、スノーボードをあわせてもせいぜい700億円ぐらいだろう。現在のスキー用品保有率のデータは、私の手元にはないので確かなことは言えないが、おそらく数%程度ではと推測する。少なくとも、私の子供たちのスキー用品保有率は、いまは0%である。
 どうしてこうなってしまったのか。遊びの多様化や、携帯電話の費用がかさんで遊びに回すお金がない、しんどいことはいや、・・・・その理由は諸説あるが、少なくとも「独身労働者の消費生活」を見る限り、若者達の自然離れは1969年当時に比べて落差は著しく大きいことだけは確かだ。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。