- 第180回 -  筆者 中村 達


『独り占めの管理釣り場』

 管理釣り場に出かけてきた。要は釣堀である。フライやルアーフィッシング専用の釣堀を、管理釣り場と言うらしい。
 最近では渓流魚が減少していて、大都市近辺では特にフライフィッシングは、もっぱら管理釣り場か、放流された河川が中心のようだ。私が住んでいる滋賀県や隣の京都でも、渓流はさっぱり釣れなくなっている。だから管理釣り場も増えているし、それなりに愛好家も多い。
 自然環境の悪化、少雨なども影響しているのだろうか。びわこのカワウが異常繁殖して、川魚を根こそぎ捕食してしまうという話にもリアリティがある。さらに、私の腕前が追い討ちをかけているので、どうしようもないといったところだ。

 びわこの西岸に南北に連なる比良山系のほぼ北端に、インターネットで見つけた管理釣り場があった。何となく良さそうなので、仕事を早々に片付けて、コンビニでおにぎりを買い込んで、いそいそと車を走らせた。


 管理釣り場に着くと、軽トラが一台と止まっているだけで、釣り客の姿は見当たらない。「こんにちわ」と声をかけると、事務所から管理人が出てきた。「誰もいないですね」と言うと、「平日はこんなもんです。せいぜい一人ぐらいです。」と、なんとものんびりしたものだ。休日に十人も入れば、随分多いなぁと驚いてしまうのだそうだ。東京の釣り好きの友人たちに言わせると、関東近辺の管理釣り場では、場所取りが大変なのだそうだ。
 釣り始めると管理人が、「水源を見に行きますのでよろしく」と、軽トラで出かけてしまった。私のほか誰もいないこの管理釣り場は、もはや貸し切り状態となった。早速ロッドを振った。すぐにカディスにヒットした。後は入れ食い状態だった。

 貸し切り状態、独り占めの管理釣り場で、ニジマスの入れ食い。贅沢といえば贅沢ではあるが、釣あげるたびになんとも複雑な心境になった。釣りは釣れるから面白い。釣れない釣りは面白くないのだが、釣れすぎる釣りも、また、面白くない。人間は何とも勝手なものである。
 ふと手を休めて対岸を見ると、野生の猿が一頭、私を見つめていた。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。