- 第179回 -  筆者 中村 達


『火山を学ぶ』

 先日、群馬県の浅間山で、「火山を知る」をテーマにした研修会があり、飛込みで参加してきた。信州大学教授で火山学の専門家である三宅 康幸先生を講師に招いた研修会で、全国紙の記者や山岳ジャーナリスト、環境省のパークレインジャーのほか、地元で活躍しているインタープリターなど、およそ10名が参加した。
http://science.shinshu-u.ac.jp/~geol/Miyake/HP/professor.html
 浅間山はいまなお活発な活動をしている活火山だが、現在は比較的落ちついているとかで、火口から500mまでは登山者が立ち入ることが出来るようになった。この日も大勢の登山客が火口の手前にある前掛山や、対岸の黒斑山へ登りにやってきていた。

 研修会は、登山口から黒斑山を経て蛇骨山までを、右手に浅間山を見ながら歩くコースだった。ゆっくり歩きながら、火山とは何かを大変分かりやすく解説していただいた。登山道に無数にある、火山礫や火山岩の成り立ち、成分など、ややもすれば学問的になりがちな事柄を、やさしく教えていただいたので、まさに楽しいアウトドア授業だった。登山コースの脇に転がっている軽石は、爆発のエネルギーが強かったので、そうなったのだそうだ。
 火砕流という言葉は、日本の学者(東大名誉教授の荒牧重雄先生)が名付け親というのもはじめて知った。

 日本には火山が多く、あっちこっちで活発な活動をしている。しかし、私などは噴火して被害が出て、ニュースになってはじめて、そのエネルギーのすさまじさに驚異と戦慄を覚えるのだが、いつの間にか忘れてしまっている。
 よくよく考えてみれば、富士山を筆頭に日本には沢山の火山があるのだが、火山そのものにはさほど関心がないのではないか。火山の大爆発が起これば、飢饉が発生したり、時とすれば文明そのものが滅亡してしまう、と歴史は示している。そうはいっても、なかなかリアリティは感じないのだが、火山に登り、火山を知れは見方が随分と違ってくる、というのが実感だ。
 ただ、火山を知るには何んといっても火山に登らなければならない。山登りである。噴煙を間近に見ると、地球の胎動を感じる。まさに、もっとも優れた自然体験活動のひとつだと思う。

 GAPのキャップをかぶって、ザックを背負い、腰の周りには様々なものをぶら下げ、なおも、火山ツール?が一式入った旧一澤帆布の特注バッグを首にかけて、にこやかにお話いただいた三宅先生の姿をみて、こういう専門家の先生こそ、最高のインタープリターだと思った。
 帰路、三宅先生が首から提げているバッグを指差して、「先生、そのバッグ自慢なんでしょう?」と冗談を飛ばすと、「自慢しています」と返ってきた。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。