  
- 第172回 - 著者 中村 達
『暖冬のスキー場』
新潟にあるアウトドア専門学校の卒業式に参列してきた。若い人達が、アウトドアや自然体験活動の世界で活躍しようという姿に感動を覚えた。久しぶりにすがすがしい時を過ごすことができた。
帰路、信州のスキー場を横目で見ながら走ったが、雪不足で黒い地肌が露出しているところが散見された。暖冬による雪不足は深刻な問題で、地域の経済を直撃している。今年は早々と店じまいしたスキー場もある。ゲレンデの索道、売店、レストラン、レンタルショップ、旅館・ホテル・民宿・ペンションなどの宿泊業、スキー・スノボースクール、バス・タクシーなどの交通機関・・・スキー場をとりまく産業は多種多様で、雇用人口も大きい。
パートで働いてきた地域の主婦たち、中高齢者にとっても予定していた労働が出来ずに、家庭の収入は大きく落ち込む。
途中立ち寄ったスキー場近くにある旧知の旅館の女将さんが、つい最近、スキー場を物色している投資ファンドが訪ねてきたと言っていた。
この国には、600ものスキー場があるが、一部を除いて経営はきわめて厳しい。いつ潰れてもおかしくないスキー場もある、という噂はこと欠かない。スキー場が不振な理由はたくさんあるが、そのうちのひとつが、間違いなく若者たちのスキー・スノボー離れだ。そして、若者のたちのスノースポーツ離れの原因もたくさんあるのだが、根本は、子ども達の雪山の自然体験が、この国の将来にとっていかに重要であるかという、グローバルな視点が、スキー産業界全体に欠如していたことではないかと思う。
雪山の厳しい環境のなかで、自然のすばらしさや、生物の営みに感動するということが、子どもたちにとって、どれほど大切であるかという感性を、この産業界に求めるのは、無理なのだろうか。すくなくとも、そんな志をどこかで持っておくことが、こんな時代だからこそ重要だと思う。
(次回へつづく)
■バックナンバー
■著者紹介
中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。
|