- 第169回 - 著者 中村 達
『子どものスキーはいい』
最近スキー場の近くで仕事をすることが多い。これはあまり精神衛生によくない。滑りたい、諦める、という信号が頭の中を交錯するので、仕事どころではなくなってしまう。
先日も、スキー場のホテルで会議があった。突然、会議と会議の合間に1時間ほどの空白ができた。そんなこともあろうかと、スキーウェアだけは持参しておいた。予想的中である。
いまどきのスキーウェア、正確にいうとアンダーウェアは高機能で、このような時にはかなり便利だ。吸汗、速乾、発熱、防臭、抗菌などの機能が網羅されていて、特にいいのが汗をかいても、あのヒヤッと感はあまりなく暖かいことだ。ひと滑りして帰ってきても、着替えなしで済ますことが出来、時間がセーブできる。また、スキーウェアは流行など気にしなくてよくなったし、アウトドアウェアのほうがとり回しがきくのもいい。バブル期は、毎年のようにスキーファッションが変ったので、気を抜くとすぐに古めかしくなったものだが、いまはそんな心配はない。アウトドア用のパーカーとパンツさえ履いておけば、それで十分だ。これだとさほど嵩張らないので、出張用のバッグになんとか押し込むことができる。
時計を見ながら急いでゲレンデに飛びだした。もう汗をかいている。平日とあってスキー客はほとんどいない。と、貸し切りバスが数台、駐車場にやってきた。地元の小学校のスキー教室らしい。レンタルスキーを借りに行く大勢の子ども達に出会った。みんなニコニコ顔で、やはりスキーはうれしいのだ。楽しそうな表情がいい。
ゼッケンにつけた名札の文字は大きい。スキーの先生が名前を見やすくするためだろう。ほっぺたが丸い男の子とすれ違った。名札には○○耕太と書かれていた。思わず「耕太、頑張れ!」と声をかけた。耕太は、きょとんとした顔で不思議そうに私を一瞥して、周囲を見回した。知らないオッサンから声をかけられたらアブナイ、と教えられているのかもしれない。
着替えの時間も計算して、なんとか2本だけ滑ることができた。スキーの指導を受けている耕太の前を滑ってホテルに戻るとき、耕太と目があった。変なオヤジが滑っているという視線を背中に感じながら、次の会議にあわてて駆けつけた。
(次回へつづく)
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■著者紹介
中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。
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