- 第167回 -  著者 中村 達


『田舎暮らし』ブームのゆくえ

 今年に入って、07年問題がにわかにリアリティを帯びてきた。実のところは、マスコミが騒ぎすぎで、踊らされている感じではある。私もその世代なのだが、ほっといてという気分だ。
 その中で特に目立つのが、田舎暮らしだろう。「悠々自適の田舎暮らし」「無農薬野菜の栽培で豊かな老後」「夢のログキャビンで暮らす」・・・などなど、こんなコピーが目立つ。
 これに乗じてかどうかは知らないが、過疎に悩む地方や中山間地域では、団塊の世代の受け入れに積極的な姿勢を見せている。50兆円ともいわれている退職金や年金をあてにしてかどうか。それに移住による様々な刺激や、人材の確保で活性化をはかろうというわけだ。確かに、団塊の世代の多くは自然指向だし、土、日は田舎暮らしをしたいという人たちが多い。「健康」「環境」「自然」「学習」「遊び」などが団塊の世代のキーワードであることに間違いはない。

 しかし、実際に田舎で自分たちの食べる分だけ栽培、といっても実のところ大変だ。野菜は病気にやられるし、天候による不作や豊作に悩まされる。近頃ではイノシシや鹿が増えすぎて、作物は彼らに根こそぎ食べられてしまったという話も聞く。フェンスを張ったり、ネットで囲んだりと、先行投資以外にも余計な出費がかさむ。
 また、冷暖房費や交通費も馬鹿にならない。交通インフラが不十分な地域が多いだけに、車は絶対不可欠だ。医療機関も都会ほど多くはないし、何かあったときはかなりつらい。
 そして、もっとも大変なのが地域になじむ方法だろう。田舎に行けば行くほど、血縁で結ばれているところが多く、都会からの移住者は、いつまでたってもいわゆる「ヨソモン」を覚悟しなければならない。冠婚葬祭の出費もかさむだろうし、地域の行事も都会より多いのが常だ。たまに遊びに出かけるのならいいが、生活の場を移すとなると、その地のコミュニティに溶け込むのは至難の業だと思う。誘致に一生懸命の自治体でも、そこまでは面倒を見てくれないのではないか。
 「田舎暮らし」はブームだが、ネガティブに見ればこんな風だ。

 一方、「田舎暮らし」が実現すれば、毎日が自然体験だ。都会から遊びに来る孫たちにもいい自然遊びの場になるし、子ども達にとってはアウトドアズに日常性が生まれてくるかもしれない。
 しかし、ほんの少し前「SOHO」に注目が集まったものの、この国ではほとんど実現しなかったことからも、都市生活者の「田舎暮らし」も、ブームだけで終わる可能性が高いのではと思っている。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。