- 第158回 -  著者 中村 達


『悪天と熊に注意の連休』

 先の3連休に雨飾山に登りに出かけた。夜、自宅を出発したときは曇り空だったが、長野県の大町あたりから雨が降り出した。天気予報では、低気圧と前線の影響で翌日も雨だった。
 夜半、宿舎の屋根は激しい雨で音をたてた。夜が明けても横殴りの雨が降り続いていた。とりあえず、6時に雨飾山の登山口に向け車で出発した。雨は止む気配はなく、姫川や支沢は濁流と化していた。気温もこの時季にしては低く、おそらく山頂部は霙か雪だったろう。
 雨飾山は日本百名山のひとつに数えられるだけあって、登山者には大変人気のある山で、晴れていれば登山口の駐車場は満杯になる。あふれ出した車が林道にまで、延々と続くこともしばしばだ。しかし、さすがにこの日は荒天だけあって、数台しか駐車していなかった。しばらく雨雲の様子を見ていたが、諦めて下山することにした。

 雨の中、白馬山麓をうろうろしていると、「熊に注意して」と、蕎麦屋でも、土産物店でも、美術館でも言われてしまった。市街地にも熊が出没して、山麓は大騒ぎになっているという。実際に人が襲われる事故が多発していると聞いた。「雨飾山を諦めた」というと、「それは良かった、あの辺りは熊がたくさんいるから」と雑貨屋のおばさんが言った。
 今年は、どんぐりの実がまったくなく、殻をあけてみると空っぽだったそうだ。ブナの実も不作で、山には熊たちの食べるものがない。昨日、市街地に現れた子連れの親熊を射殺し、胃の中を調べてみたら何も入っていなかったという。親熊がいなくなって、子熊たちはこの冬は乗り切れないだろう。

 日曜日の朝、時折薄日は差すものの、風と雨は相変わらず激しく、気温もこの時季にしてはかなり低い。宿舎ではストーブを炊いた。雨飾山の方向は真っ黒な雲で覆われていた。
 これでは楽しい山歩きはできないと、登山を諦めた。せめて紅葉を見ようと、栂池自然園へとゴンドラに乗り込んだ。突風が吹き、時折ゴンドラが止まった。しかし、さすがに連休だけあって、多くの観光客で賑わっていた。
 ビニール製のカッパが飛ぶように売れていたが、この風雨には役に立たないように見えた。観光客のジーンズとスニーカーといったいでたちでは、お気の毒としか言いようがない。
 自然園は風が強く霙混じりの雨が吹きつけていた。そして、すぐ上の白馬岳で、4人も亡くなるという悲惨な遭難があった。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。