- 第156回 -  著者 中村 達


『自然体験と中高年』

 先日、子どもの居場所作り事業の実施の様子を見る機会があった。子どもの居場所作り事業は、放課後や休日に何もすることがない、という子ども達に様々な体験活動を行ってもらおうと、文部科学省の支援によって一昨年から実施されているものだ。その中で自然体験の活動は、CONE(自然体験活動推進協議会)などが中心になって行っている。
(参照 http://www.shizen-taiken.com/mext/20050519f.html

 訪ねたのは大阪府の南部で行われている事業で、この日のテーマは「川遊び」だった。台風の影響が心配されたが、運よく好天となり、まるで真夏のように暑い日になった。
 お昼過ぎ、およそ30名の子ども達が地区の公民館に集まってきた。指導者はボランティアが10名ほど。ほぼ半数が大学生で、残りが60歳以上の中高齢者だった。

 近くの渓谷で、班毎に分かれて「川遊び」が始まった。川遊びの班と、魚釣りの班が交互に入れ替わるようなスケジュールが組まれていた。里山を流れる水は冷たいが、子ども達は大はしゃぎだ。服を着たまま飛び込む子ども達の表情がとてもいい。学生のボランティアリーダーが、安全を確保しながら子ども達と戯れていた。

 一方、魚釣りの子ども達は、とても真剣だ。魚釣り、つまり狩猟という行為は、人間の本能を呼び覚ますのだろう。釣り糸を垂れる集中したまなざしを親たちが見れば、少しは勉強に向けてくれればいいのにと、そう思うに違いない。

 子ども達の様子をカメラで追っていると、すぐ横で女の子の悲鳴が聞こえた。「痛い!」。そして泣き出した。針が指に刺さったらしい。若い指導者であれば、「大丈夫?バンドエイド貼ってあげるから泣かないで・・・」などとなるのだろうが、そこは60歳をはるかに超えたオバアサンリーダーだけに「大丈夫やで。針がちょっと刺さっただけや。痛いやろ、そやけど泣かんとき。すぐ治るから。」女の子は頷いて、泣くのをやめた。

 竹の釣り竿をセットして、餌をつけ、指導するのは、中高年の指導者が中心だった。昔とった杵柄なのだろう、カワムツやウグイなどがいるポイントに、うまく投げられるよう、まるで孫に教えるように、手をとってやさしく指導していた。子ども達も自分たちのおじいちゃんから教わるように、安心して魚釣りに熱中していた。

 来年から団塊の世代が、ともかく大量に60歳を向かえる。自然体験が日常的な遊びであったこの世代に、子どもの自然体験活動の指導に、知恵と経験をどのように生かしてもらうか、真剣に考えるときがやってきた。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。