- 第144回 -  著者 中村 達


『修学旅行』

 このところ、毎週のように東京と自宅のある滋賀を往復している。多い時には週2回などという時もある。しかし、通常は新幹線の中は静かだし、本を読んだり、ゆっくり寝ることが出来るので、慣れてくれば移動の時間を有効に使える。
 そんな新幹線での大敵は、まず、おばさんたちや、オヤジたちの団体旅行だ。特にオバサンたちの団体は、世間話、悪口雑言が到着駅まで延々と続く。こんな事態に遭遇した時は、車掌にお願いして車両を変えていただいている。オヤジたちの場合は、ビールやお酒を飲むことが多いので、最初の30分ほどだけ我慢すれば、たいていは寝てしまうので静かになる。

 さて、先日は上りの新幹線で、なぜか中学生の修学旅行の一団に遭遇した。普通、修学旅行は団体貸し切りだが、この日は一般客席の半分を中学生が占めていた。喧騒である。静かにしろというのが無理なのは良くわかっているが、朝の車内では結構つらい。一般客も迷惑顔だが、しかたがないという空気だ。この日は満席だそうで、他の車両への座席変更も無理だというので、諦めるしかなかった。

 新横浜を出て東京まであと少しというとき、引率の教師だろうか、突然大声で指示を出した。ゴミを拾う、忘れ物がないように・・・。そして、荷物を持たせて通路に立たせ、出口に移動を始めた。通路の半ばで一般席にさしかかった時、引率者が『みなさん生徒が通りますので、先に出口の方に移動いただいたほうがいいと思います。』と言った。まだ品川あたりだったろうか。この車両にはお年よりもたくさん乗車していた。仕方がないので、乗客たちは荷物を持って、揺れる通路に東京駅に到着するまで立たされる羽目になった。東京駅は終点だから停車時間もたっぷりある。なにも急ぐ必要はないはずだ。マナーやエチケットを教えるのも修学旅行では大切なことだと思うのだが。
 『花の東京や!』という引率者の声がすぐ後ろから聞こえてきた。どんな体験学習をするのか、少し気になった。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。