- 第133回 -  著者 中村 達


『ファインダー覗いてくれますか?』

 雪に覆われた白川郷合掌集落は、いささか観光的風景に過ぎるが、その独特の趣は私たち日本人の心に響くものがある。
 そんな白川郷で、いきなり「先生!この構図どうですか?教えてくださいよ!」と、老人から声をかけられた。合掌集落が一望できる展望台でのことだ。

 思わず後ろを振り返ってみたが、誰もいない。どうやら私たちのことらしい。流行のデジタル一眼を手に提げているとはいえ、プロユースのものではないし、私たちは単なる観光客風情だ。先生といわれる所以はない。面食らっていると、その老人のものらしい三脚にのったカメラを指差した。
 6×6判の高級カメラで、レンズと合せるとかなりの金額になると思う。「それじゃ」といってファインダーを覗かせていただいた。
 さすがにクリアーなファインダーを通して、合掌集落がしっかり捉えられていた。「どうですか?この構図は?」とたずねられた。「私は、山が立っているほうが好みなんですが・・・」。「・・・・・・」。こたえは返ってこなかった。私の友人も声をかけられた。彼は、ファインダーを覗きながら「上の部分は切ったほうがいいんじゃないですか?」と見るからに仕方なくこたえた。すると「6×6ですから、どうせカットしますので・・・」。それだったら訊ねなくていいのにと、友人は少々むっとしている。

 なんとなく雰囲気が悪くなったというか、いづらくなって早々にその場を退散した。
 同行者たちが、「みんなに自慢しているんじゃないの?いいカメラだから」と言った。わけが分かったような気になった。まさにこの国の高齢社会の一面を実感する瞬間だと感じた。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。