- 第132回 -  著者 中村 達


『北海道の農業体験』

 北海道の農業は酪農も原生林の開発、開墾から始まった。厳しい気候と自然の中での重労働と、幾多の過酷で苦難の歴史があった。さらに凶作や冷害などが続き、農業を断念せざるをえなくなった人々も多い。農家の貧困からの脱却が、北海道農業の大きな目標でもあったといわれている。

 私たち本州の人間が思い描く北海道といえば、牧歌的なライフスタイルで、窓の外は雪が降り、部屋では暖炉が燃え、温かいシチューを食べる、などというものなのだろうが、現実とは大きく違う。冬は氷点下20℃をさらに下回る厳しい日が続く地域も多い。
 そんな北海道の十勝で農業体験の検討会があった。農業体験といっても、本州のそれとはかなり異なる。主な産品は馬鈴薯や麦、蕎麦などだ。北海道の農業は基本的に大規模農業(もっとも米国などの比ではないが・・・)であり、地域によっては農業工業ともいわれるほど機械化が進み、二次産品、つまり加工食品まで生産しているところも多い。
 したがって、そのような地域では農業体験自体が、農家にとっては大きな負担になったり、作業の邪魔にもなりかねない。ズブの素人や子どもたちが、機械化された農業や酪農を簡単に体験できるようなものではない。
 今回訪れた地域では、牛の糞尿を集めて発酵させ、発生したメタンガスを利用して発電するという、環境循環型のバイオマスプラントなどを設置している酪農家もある。コンピューター制御で、乳牛の効率的な飼育を行っている人たちもいる。
 農業体験の重要性は指摘されているとおりだが、それ自体がビジネス的に成立させるのは大変難しいと思う。果樹園などでの観光農業体験や、旅館業のサービスのひとつでもない限り、農業体験活動は商売としては成り立たないといわれている。
 北海道のような大規模農業では、なおさら農業体験をするチャンスは少ないし、本来の農作業の邪魔にすらなるし、余計なことでもあるのだ。子どもたちが大型のコンバインを動かせるわけではなく、自動化された搾乳を見ることはできても、体験するわけには行かない。

 そんな地域での農業体験をなぜ考えなければならないのか。それは、この国の食糧問題とともに、北海道の大規模農業の実情を見てほしいという願いからでている。農業や酪農の実際を、次代の子どもたちが知ることの重要性を、過去の困難の歴史から体感されているからと思う。伝えていきたいという思いが、半ば自然発生的に生まれてきた意味は大きい。
 会議である酪農家から、「本当は、農業体験は農家の負担が大きくて大変だけれども、なんとか子どもたちに、農業の大変さ同時に喜びを知ってほしい。」という趣旨の意見があった。それは次代の担い手を、どうつくっていくかという課題にも聞こえた。
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(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。