- 第122回 -  著者 中村 達


『トレッキングシューズの加水分解』

 体育の日の連休に、八ヶ岳を歩いてきた。今年は紅葉がいつもより1週間ほど遅いのだそうだ。
 あいにくの天候だったが、唐沢鉱泉から黒百合平につづく森の道は、色づきはじめた広葉樹と、シラビソやトウヒなどの深い緑が、雨に濡れて鮮やかなコントラストをみせていた。黒百合ヒュッテ(http://www.alles.or.jp/~kitayatu/)は連休だけあって、多くの登山客で混んでいたが、この小屋はいつきても快適だ。採れたてのキノコ料理が、とても美味しかった。

 翌日、私たちは他の登山客がヒュッテを出払ったあと、もっとも遅れて天狗岳に登りに出かけた。雨は止んでいたが、ガスが立ちこめ視界は不良だった。
 山頂近くまで登ったとき、同行者の一人が「靴底が剥がれた!」と、立ち止まった。彼のソールは、見事に剥がれていた。いわいるトレッキングシューズの加水分解である。最近この種の事故が、やたら多いと聞いてはいたが、同行者がそんな目に会うとは予想外だった。黒百合ヒュッテの米川さんによると、お客さんの中にも多いときは、一日に数件この種のソールの剥離があるらしい。
 トレッキングシューズなどで多用されているポリウレタンのクッション材は、5年が寿命だという。特に高温にさらされたり、水に濡れると劣化が進むといわれている。
 (参考 http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2004/08/60e8a100.htm
 メーカーや専門店によると、材質の問題からソールの剥がれは、防止することは不可能なのだそうだ。登山の前には、ひびや亀裂が入っていないか入念に点検する必要がある。
 何よりの防止策は、新品のトレッキングシューズであっても、ポリウレタンが使われているものは、生産されてから5年を経過したら履かない、ということしかないらしい。
 ソールが剥がれると、山登りはとても危険である。登山は中止して、ロープ、針金、テープなどで応急処置を施して下山しなければならない。これらの用具は常に装備のリストに入れておく必要がでてきた。厄介なことではある。

 友人は運よく持っていたロープで固定して、なんとか下山することが出来た。下山後、彼の奥さんのトレッキングシューズも、すでにソールが剥がれ始めていた。なんとも仲のいいことである。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。