- 第119回 -  著者 中村 達


『岩魚が激減した、とっておきの沢』

 8月の終わりに、岐阜の山中に岩魚釣りに出かけてきた。この釣りばかりは。キャッチアンドイートである。もちろん小さなものは全てリリースで、大きいのだけを命に感謝していただくことにしている。岩魚の刺身、から揚げ、姿焼き、そして骨酒と贅沢な釣旅である。
 この山中に通い始めて、今年で4年目になった。山深い岐阜の山中だけあって、魚影は濃い。爆釣りとはこのことかいうほどヒットする。毎年数十匹は釣れる。
 今年も、藪を漕ぎながら急峻な斜面を降りて、深い渓谷の底に降り立った。太陽の光は渓谷の最深部にはほとんど届かない。釣り始めるとすぐにヒットした。続けさまに数匹釣上げた。しかし、その後は全く反応がなくなった。2時間ほど釣りあがったが、魚影を見たのはほんの2回しかなかった。

 分かれて釣っていた別のグループに、あらかじめ決めていた場所で落ち合った。彼らが途中で出会った釣り人の話では、どうやら、このあたりの沢にも人が入り始めたというのだ。昨年などは、私が入っていた沢に、電流を流して根こそぎ岩魚を持って帰ったという話だった。真偽のほどは不明だが、まったく釣れなくなった理由が分かったような気になった。と同時に、暗い気分になった。

 日本の渓流には魚がめっきり少なくなった。魚より釣り客の方が多いというのも、あたらずとも遠からずといったところかも知れない。この沢にはしばらく近づかず、そーっとしておこうと思う。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。