- 第116回 -  著者 中村 達


『白馬村と前衛舞踏』

 長野県の白馬村で、前衛舞踏を見てきた。麿赤兒(まろ あかじ)氏が主宰する大駱駝艦である。北アルプスの鹿島槍や五竜岳を借景に、松川の河川敷に作られた特設の舞台の前には、大勢の人たちがやってきた。観光客や避暑に訪れた家族連れ、それに村人たちもシートや折りたたみ椅子を持って、大挙して鑑賞にやってきた。川原でキャンプをしていたファミリーもきた。
 そもそもこの公演は、前衛舞踏の合宿の仕上げとして行われたもので、村の人たちへのお礼の意味もあるのだそうだ。
 大駱駝艦の担当者に話を聞くと、舞踏を学びたい人は世界各地にいるとかで、今年もアメリカやヨーロッパなどから大勢の合宿生がやってきた。白馬村は八方尾根などのスキー場があるが、夏はそこで働く従業員の宿舎は使われていない。その宿舎には厨房や大きな風呂もあるので、合宿には好都合なのだ。また、村には体育館もあるので、稽古場にも不自由しない。それになんといっても、白馬村は標高500m以上の高原だから、涼しいので合宿にはもってこいだ。つまり、白馬村の活性化と前衛舞踏の指導が、うまく結びついたというわけだ。

 今年で4回目の合宿だそうで、この公演だけを見にわざわざやってくる観光客も多いので、村の観光にも寄与している。聞いた話だが、合宿所の近くにあるコンビニは、合宿生の買い物で、売り上げがかなりアップするのだそうだ。

 雷鳴が遠くで轟く中で行われた公演は、自然と舞踏が融合した幽玄の世界だった。
 公演が終わり河川敷を歩いていると、私がよく知っている民宿のオバサンにばったり会った。『すごかったねぇ、私、感動しちゃったわ!』と、目を潤ませていた。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。