  
- 第109回 - 著者 中村 達
『お気に入りの山』
私の自宅から、車で10分ほどで三上山(432m)通称近江富士の登山口に着く。低山だが、三角形の独立峰なので、びわ湖湖畔からも三上山は、はっきり分かる。見る方向によっては、三角錐のようでもある。だから、ピラミッド伝説にもよく登場している山でもある。
登山道はいくつかあって、いずれも急な坂道だが、どの道もよく整備されていて40分程度で山頂に立つことができる。山頂からの見晴らしはすこぶるいい。びわ湖の対岸には比叡山や比良山系が見渡せ、足元には近江平野が広がる。
私はこの山が好きで、年に何度も登っている。身体がなまった時や、登山に出かける前のトレーニングに、水だけ持って登りに行く。短いハイキングだが、不思議と達成感がある。いくら登っても飽きることが無く、なんともいえない満足感がこの山にはある。
自宅から仕事場までは、この山の南から東側を回り込むようにして、ほぼ半周を車で通い、三上山のある風景を楽しんでいる。季節によって、天候によって、その表情はいつ異なっていて、いまは新緑がとても鮮やかである。
先日も思い立って歩いてきた。休日は家族連れが多く、小さな子どもたちもよく見かける。高い山や遠くの山域では、子どもたちや若者の姿はほぼ消えてしまったかのようだが、近郊のハイキングコースでは、まだ子どもたちも声があっちこっちでこだましている。
小さな子どもたちを連れた、ファミリーの姿を見るとホッとする。子どもの時代の自然体験がいかに大切かよく分かる。「こんにちは」の挨拶は、誰に教えられたわけでもない。「ゴミは持って帰る」も身体で覚えるはずである。山頂に上った達成感と、満足感は私たち大人の比ではないと思う。連れ出す親たちは、この時代、やっぱり偉い。
(次回へつづく)
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■著者紹介
中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。
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