- 第103回 -  著者 中村 達


『乳頭山の遭難騒ぎと子どもたちのサバイバル』

 秋田・岩手両県にまたがる乳頭山(1,478m)で遭難事故があった。43名もの集団遭難なので、随分と大きなニュースになった。
 3月末とはいえ、山は真冬である。テレビなどで「ベテランの方もおられた」という関係者の声が報道されてはいたが、「ベテラン」の意味がよくわからなかった。40名以上の団体を率いて、積雪期の1,000m級の山に登るのには周知な準備と、万全の指導体制が必要だと思う。とても大変なことだと思う。
 『遭難のしかた教えます』(山と溪谷社 丸山康弘著)という本の中に、助けたくなる遭難と、助けたくない遭難という記述があったが、そんなことを考えたくなる騒ぎではあった。
 ともかくみなさん無事に下山できたのは本当に良かった。

 山はいまや中高年で占領された感があって、ちょっと有名な山岳に出かけると、元気なオジサン、オバサンで溢れている。この層の登山者が増えると、それに比例して遭難事故も増える。ここしばらく遭難事故の大半は40歳以上の中高年である。そして、これからも山岳遭難は起こり続けるだろう。
 いまは若者たちは山に登らないので、彼らにはそんな心配はない。

 一方で、大分県の狭間町での子ども3人の行方不明は、あらためて子どもたちのたくましさ、賢さを認識させてくれる事故だった。
 「今まで行ったことのない所を探検したい」と、良く遊びに行く裏山だが、いつもとは違う場所を探検したかったそうだ。目印にティッシュペーパーを丸めて、ところどころに目印として置いて歩いたが、どうやら風で飛ばされ、道に迷ってしまった。
 しかし、暗くなったので動かずに、寒さを防ぐために枯葉で暖をとろうとしたが暖まらないので、身体を寄せ合って助けを待ったという。
 これが9歳と6歳と4歳の子どもたちの知恵だった。
 もちろん無事に救助されたからこそ言えることだが、よかったね、というよりすごいなあと感心させられる出来事だった。乳頭山の遭難騒ぎと時期が重なったため、なおさら子どもたちの行動が際立ってしまった。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。