- 第91回 -  著者 中村 達


『外国語のインタープリテーションがない』

 日本に来る多くの外国人観光客は、日本の観光地を見てがっくりするのだそうだ。
 とくに、リゾート地といわれるところは、国籍不明で日本が見えないという。それに日本は68%が山岳丘陵地帯だというのに、外国語で案内、つまり英語や中国語でインタープリテーションできるシステムがほとんどない。道路標識や看板類に、英語の標記が書かれだしたというのが、ようやくといったところ。

 また、国内に居住する外国人にとって、山や自然に出かけるための情報が、あまりにもお粗末だ。ある在日米国人が、ボランティアで日本の自然をコミュニケーションペーパーに英語で紹介していて、それがたいそうな評判だと聞いた。そういえば、日本アルプスの名前をつけたのもイギリス人科学者だったし、それを世界に紹介したのもイギリス人の宣教師だった。
 日本には多様で美しい自然があるというのに、それをうまく解説、紹介するスキームが不在といっていいだろう。これでは観光立国どころではない。

 ところで、あと5年もすれば、団塊の世代の1千万近い人たちが、定年を迎える。私もその一人だが、ともかく自由時間をたっぷり持った塊が、世の中に排出される。この中には、外国語に堪能でインタープリターとなれる人たちも相当数いるはずだ。そんな能力のある人たちを、外国語のできる自然解説者として活用できないかと思って、いろいろ調べてみると、明治時代にできた、いわゆる通訳法の壁にぶつかってしまった。要は通訳の免許なしに、通訳をして対価を受け取れば、この法律に触れるわけだ。
 このあたりに風穴を開けないと、本当の意味での観光立国とはならない。

 先日、レイチェル・カーソンの研究家の上遠恵子さんにお会いする機会があった。上遠さんは、これからは爺さんば婆さんが、インタープリターとなって、子どもたちを自然に連れ出せばいいと言っておられた。体力的にもちょうどいいし、経験を教えられると。
 今子どもの居場所づくりが話題になっているが、社会が、地域が一体となった仕組みが自然体験には必要だと思う。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。