- 第82回 -  著者 中村 達


『白山は子どもたちがいっぱい』

 7月の末に久しぶりに白山に登ってきた。20年ぶりなので、実のところあまり記憶が残っていなかった。独立峰で大きな山だった、としか印象がない。永年山を歩いているが、トレールを、つぶさに覚えている山なんてほとんどない。私の記憶なんていい加減なものである。平日の朝8時だというのに、登山口の別当出合の駐車場は、満杯の状態だった。

 厳しい真夏の熱射をまともに受けながら、土石流で流されて、つい5日前に新設されたつり橋を渡って登りはじめた。白山は、登りごたえのある、それでいて道も大変よく整備されていて、登りやすい、いい山である。
 
 広葉樹の森を歩いていると、にぎやかな声が聞こえてきた。下山してきた登山者だ。山頂でご来光を見て、すぐに下ってきたのだろうか。その一団のなかに、子どもたちの姿があった。その後も、すれ違う登山者に元気な子どもたちや、若者たちがたくさんいた。近頃なかなかお目にかかれない光景で、なんとなくうれしくなってきた。

 聞いてみると、地元の石川県各地から登山に来ているのだそうだ。小学生と一緒のファミリー登山が多く目についた。最近、やたら中高年登山者ばかりで、やや食傷気味ではあったが、これだけ若者たちや、子どもたちの姿が多いとホッとする。しかし、考えてみれば、数十年前は、山は若者たちで溢れていたのだ。

 厳しい暑さのなか、5時間ほど登り続けて、山小屋のある室堂に着いた。
 山小屋は石川県が管理する大きな施設で、700人以上も泊まれるという。役所が経営する施設だけあって、それなりに整備されているが、あまり居心地は良くなかった。広い棟の小屋がいくつもある割には、くつろげるスペースがほとんどない。特に若者や子どもたちだったら、次はちょっと、と言いかねないように思う。山小屋はどこでもそんなものだ、と言われそうだが、30~40人で一部屋。夜の8時半消灯。絶え間なく続く、イビキ、歯軋り、そして突然の叫び声・・・これでは、安眠はできない。食事は、聞いてはいたが、いまどきの山小屋に比べると、レベルは落ちる。穂高や剣など、自然環境が厳しいところでも、食事はもっといい。関係者はこのあたりの事情を、学習したほうがいいと思う。これからの山小屋は、高齢者や子どもたちに、どの程度優しいか、サービスできるかが選別の基準になると思う。
 これでは、若者たちや子どもたちに、『白山はいいぞ』とすすめられない。そんな中で、嬉々として働く多くのアルバイト学生?の姿に、救われる思いがした。

 翌早朝、といっても真夜中の3時30分だが、無理やり起こされた。ご来光を見るためだ。なぜご来光を見るのか、いまだによくわからないのだが、みんながそうするので、まだ半ば寝っている頭のままで、山頂に向かって歩き始めた。30分ほどで白山山頂(2,707m)に立った。5時前、北アルプスの背後から朝日が昇りだした。すると、突然、万歳三唱が湧き上がった。気がつくと、私の同行者も両手を上げていた。
 もっとも、この日のご来光は、早速私のデスクトップに貼り付けた。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。