- 第74回 -  著者 中村 達


『中高年の単独登山は、やっぱり危い!』

 京都、滋賀、福井の3県境にある三国峠(776m)から、ブナの原生林で有名な、由良川の源流を歩いてきた。自宅から車で琵琶湖大橋を渡り、1時間少々で登山口に着いた。すでに、10数台の車が駐車していた。大阪や神戸ナンバーがあった。大阪からだと3時間近くはかかるはずで、きっと朝早く出発されたのだろう。最近では、この奥深い原生林も人気がある。登山口で出会ったグループは、中高年の登山愛好者達ばかりだった。もちろん私たちも、その類である。

 ブナ、ミズナラ、トチなどの新緑がまぶしかった。梅雨前のこの時期が、緑がもっとも美しいと思う。山道をゆっくり登っていくと、小一時間で頂上に出た。周囲は濃い原生林で覆われていた。静かだった。
 道標が少ないので、しっかり地形を確かめ、地図を読まないと、間違ってしまいそうになる。本来、道標などは必要最小限でいい。
 山頂では数組のグループに出会った。頂上から由良川の源流に入った。ややオーバーな表現ながら、外国の著名トレールを思い浮かべるような、すばらしいコースだった。

 この原生林は、自然環境が大変よく保全されていて、ツキノワグマやカモシカなど、野生の動物も、数多く生息しているようだ。林道もあるが、一般車両は通行できない。

 この山域でも、単独の登山者が多いのに驚かされた。しかも、例によって中高年者ばかりだった。中年女性の単独行者にもお目にかかった。単独行の理由はいろいろあるのだろうが、もし、足を滑らせて動けなくなったら、もし、谷に落ちてけがでもしたら、もし、道に迷ったら・・・もし、もし、と危険因子は多い。人ごとながら、いつも気になっている。多発している中高年登山事故の原因は、『転ぶ、滑る、つまずく』といった、ひと昔なら、考えられないようなものが多いのだ。

 同じ日、すぐ近くの山域で、登山者2名が行方不明となった。ひとりは単独の高齢者、もう一人は、グループ登山だったようだ。少なくともこのコラムを書いている時点では、まだ発見されていない。すでに行方不明になってから、2日が経過しようとしている。
 滋賀県は、昨日から今朝にかけて、すさましい豪雨だった。無事の下山を祈りたい。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。