- 第63回 -  著者 中村 達


『10歳代はあきらめた!?』

 ある有名スキークラブの幹部が、こう言った。『10歳代は諦めました。3歳から小学生にかけています』。いまの中学生や高校生を、競技選手として育成するには、もはや無理だということなのだ。
 10歳代のスノースポーツ離れは、深刻である。長野県のスキー王国?でも、この年代のスキー人口は激減しているらしい。
 
 確かに、スキー場へ出かけてみても、10歳代と思える子ども達の姿を見ることは稀だ。
 すでに修学旅行のスキー離れははなはだしく、行き先はテーマパークや海外などがトレンドになっている。これでは、スキーを始める機会を逃してしまう。

 ほんの少し前は、修学旅行といえばスキーが人気だった。これは学校側にも好都合で、繁華街がないスキー場で、ホテルやロッジに生徒を隔離できるし、管理もしやすい。
 生徒はスキー学校に任せておけば、それでよかった。すべてのお膳立ては、旅行業者がやってくれるので、楽だったそうだ。わたしの友人の高校教師も、そう言っていた。
 しかし、このスキー修学旅行は、総じて不評だったように思う。結果として、スキー修学旅行でスキーが嫌いになった子ども達が、あまりにも多かったといわれている。これは、スキー教師の質や、指導体制に大きな問題があったことに原因がある。

 数年前のことだが、あるスキー場で、スキー修学旅行生の、スキー講習集団ボイコット騒動があった。100名以上の生徒が、スキー教師のあまりにもひどい技術に、線が切れてしまったそうだ。大量の指導者が必要となったスキー講習で、不足した指導者を旅行業者が、技術が未熟なアルバイトで、補充したしたことが原因だったと聞いた。『3級程度の技術があれば・・・』などと、募集したらしい。
 これは極端な例だろうが、これに近いことは結構あったのではと想像する。

 スキーやスノーボードは、お金がかかるし、この不況下では、おいそれと、スキーに出かけられない。そのうえ、いまは携帯電話代の出費も大きいし、日常化したハレの日の経費もかかる。そんな事情も若者達、とくに10歳代のスノースポーツ離れを加速している。
 それに、バブル時代のスキーがもつ、負の遺産もスキーマインドに、深く根を下ろしているように思う。

 10歳代のスキー指導に力を入れていると言った、冒頭のスキークラブでは、3歳児から小学生のスキー指導を、メンバー総出で、無料で行なっているそうだ。その甲斐があって、参加する子ども達も増え、父母からも好評をえている。この子ども達から、未来の競技選手を育てるのだそうだ。

 また、長野県では県内の小学生全員に、リフト券を無料で配布したという。確かにジュニアのスキーは堅調だと、自然学校の関係者からも聞いた。
 しかし、10歳代のスノースポーツ離れは、これから先、この国のスキー産業にボデーブローのように、じわじわと効いてきて、さらに深刻な状態になってくるのではと思う。
 この世代を、雪の世界にどう連れ出すか、これは自然体験活動でも同義語である。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。