![]() ![]() ![]() - 第59回 - 著者 中村 達
『比良山索道の廃業』 関西で比良山といえば、ハイキングのメッカとしてなじみが深い。びわ湖の西岸にある、1000m級の山脈である。標高1214mの武奈が岳が最高峰だ。武奈が岳の中腹には八雲が原という湿原があって、周囲はブナの森である。その湿原の横にはスキー場がある。リフトが2基の小さなゲレンデだが、京阪神から近いので人気があった。私も高校生の頃、練習にこのスキー場に、なんども足を運んだ。 武奈が岳やこの比良山スキー場には、麓からリフトとロープウェイを乗り継いであがる。 スキーにはもっぱら、リフトとロープウェイを利用する。利用しなければ、高度差800mを数時間かけて登らなければならない。 最盛期は10万人以上の登山者やスキーヤーが、この索道を利用した。しかし、年々利用者は減少して、昨年は6万人になったそうだ。それで、累積赤字が膨らんで、今年度限りで、ついにリフト、ロープウェイの営業終了が決まった。 これで手軽に登れた武奈が岳は、がんばって登らなくてはならなくなった。自宅からリフト乗り場まで、約1時間。リフト、ロープウェイを乗り継げば、山麓から2時間余りで山頂に立てた。晴れていれば、頂上からは、白山や北アルプスが望見できた。 バブル時代には、ブナの森を切り開き、大リゾート地にしようなどという、ばかげた計画もあった。地元や京都の山岳界で反対運動が起こった。 それも、いまや夢のまた夢で、リフトの跡や、ロッジなどの建物はどうなるのだろうかと、少し心配ではある。廃墟となるのか、何かに利用されるのか・・・。索道が廃止されれば、施設の運営は難しいだろうと思う。 利用されなくなるゲレンデは、雑草が生え放題になるのか、ブナの森に再生されるのか、・・・。ただ、山は、間違いなく静かになることだけは確かだ。手軽に登れたこの山は、昔の姿に少しずつもどる。寂しいような、うれしいような複雑な心境だ。 一方で、索道や施設で働いていた人達の再雇用も心配である。 こんな廃止や廃業の話は、あっちこっちでよく耳にする。不況だけでなく、若者達のスキー離れ、山離れが大きな理由だろう。先日、あるスキーショップの責任者が、10歳代の若者達のスキー離れ、スノーボード離れが深刻ですと、顔を曇らせた。 今年、スキーはかつてなく厳しい。極端な売れ行き不振が続いているのだ。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■著者紹介 中村 達(なかむら とおる) 1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。 通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。 |