- 第48回 -  著者 中村 達


『三浦雄一郎さんのエベレスト登山』

 先日、新潟市で三浦雄一郎さんと、お目にかかれる機会があった。来年の春に妙高高原で開校する、国際アウトドア専門学校の記念イベントで、三浦さんとトークショーをすることになった。
 ご存知のとおり、三浦さんは世界最高齢の70歳で、この6月にエベレスト山頂に立った。70歳という年齢による世界最高峰のエベレスト登山の成功と、そのチャレンジ精神、冒険心に喝采がおくられている。

 三浦さんは、会場にひとり、ぶらーっと、デイパックを担いで、登山靴を履いてやってこられた。しかし、その登山靴は、いかにも重そうなので、おたずねすると、「特注の登山靴で、おもりが2kg入っています」ということだった。トレーニングのために常にはいておられるそうだ。そういえば、先日、NHKの歌番組にゲスト出演されたときも、そんな靴を履いておられたような気がした。

 ほんの20~30年前まで、ヒマラヤの登頂者といえば、せいぜい30歳代までだった。少なくとも8,000m級の高峰では、それが常識だったように思う。その時代から現代までに、人間の体力が向上したわけでもないし、肉体的に強靭になったとはとても思えない。だから、70歳という年齢で、エベレストの8,848mに立つというのは、トレーニングと、想像を超える強靭な精神力、チャレンジ精神がなければ、とても果たすことはできない。

 さて、エベレストはこれまでに1,919人が登頂した。同じ人が何度も登っているので、実質的には1,200人ほどだそうだ。私は登ったこともないので、偉そうなことはいえないが、エベレスト登山の課題は、その高度である。エベレストに高度という問題がなければ、数日で登れる山だと、かつて、高名な登山家が言ったことがあった。だから、最近では公募登山隊が組織され、営業としてエベレスト山頂に登らせている。ひとりあたり800万円も出せば、基本的に誰でも参加でき、運がよければ世界最高点に立つことができる。
 しかし、このいわば営業登山隊によって、三浦隊は、登頂の順番を待たなければならなかったし、登頂時間が遅れ、危険度が増したそうだ。
 エベレスト登山については、登山制限の話も出ている。しかし、三浦さんは、制限するのではなく、エベレストに登るには、一定の経験度を資格とするべきだと語られている。氏はエベレスト登山の数年前から毎年ヒマラヤ登山を行い、昨年は8,201m峰のチョー・オユーを登っている。だから、このようなトレーニングをした登山者のみに、エベレスト登山の資格を与えたらという主張だ。
 今回のエベレスト登山で注目されたのは、ご子息と一緒に山頂に立たれたことだ。いわば、世界最高峰のファミリー登山である。三浦さんは、「アウトドアや山登りって、本来家族でやるものだと思います。」と雑誌のインタービューにこたえられている。そして「一家で何か活動するっていうのは、本当に安心感があります。」と。
 会場には、三浦さんの話を、お顔を一目見ようと、平日の昼下がりにもかかわらず、山好きの中高年者が多数こられていた。その中で、少ないながらも若い人達もいた。質問タイムで、彼らは目を輝かせて「第2、第3の三浦さんを目ざします」と、異口同音に発言したのが、印象深かった。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。