- 第28回 -  著者 中村 達


「年収300万円を目指す、自然体験NPO」

 トム・ソーヤ企画コンテストの表彰式と、シンポジウムが開催された。全国から多くの方々にお集まりいただいた。
 表彰式やシンポジウムの詳細は、この自然体験.COMや、日経新聞1月30日付夕刊に掲載のとおりだが、シンポジウムでは私にとって、大変興味深い話があった。
 それは、パネリストの一人であった、大杉谷自然学校代表の大西さんが「目標はスタッフの年間所得をなんとか、300万円にしたい。」と、コーディネーターの問いに答えたことだった。
 以前、NHKTVだった思うが、日本のNPOに従事する人たちの、平均年収は確か160万円だと報道していた。
 自然体験活動や、野外教育に携わる民間の団体は、自然体験指導の要請が高まりつつあるので、需要はかなり増えているものの、そこに従事する人たちの処遇は、決して恵まれたものではない。労働時間や作業の内容にしては、使命感なくしてはとても続けられないと思う。

自活力をつける
 年収300万円といえば、大学を卒業して就職した、1年目の平均年収より低いはずだ。
 一方で、米国では年収200万円があれば、なんとか暮らしていけるといわれている。ニュージーランドでも同じだと、当地の友人も、そう言っている。
 要はライフスタイルの問題、つまり生活価値観を考えておかないと、これからの時代は生きていけないのではないか。例えば、年収が1000万円あったとしても、東京で住居を構え、それなりの暮らしをしようと思ったら、決して楽ではない。通勤地獄とストレスにも耐えなければならない。
 しかし、シンポジウム終了後の挨拶で、安藤副理事長が語られたように、これからは自分だけでも生きていくというベース、つまり自活力をつけていき、新しい生活価値観を作っていくことが大切ではないかと思う。自分サイズの生き方を見つける、ということだろう。

そんなライフスタイルがハッピーだ
 少し前のことだが、米国のニューイングランドで、そこに住むニューヨーカーが、給料が安くても、ここは自然がいっぱいあって、環境汚染や犯罪も少ないし、アウトドアで過ごす時間がたっぷりとれる。仕事が終われば、夏はカヌーにフィッシング、冬はクロカンが楽しい。この方が、はるかに人間としてハッピーだ、と語っていた。

 自然体験ができるようなフィールドいえば、都会とは離れた中山間地域が多い。自然学校ではスーツは必要ないし、アウトドアウェアが仕事着だ。住居費も都会に比べれば、はるかに安いし、生活費は格安ですませることも可能だろう。ゲームセンターやパチンコ店もないし、遊興娯楽費も使いようがない。しかし、必要な情報は、いまや、テレビやインターネットで入手可能で、情報には飢えることは少ない。必要な書籍や資料も、宅配便でどんな僻地でも配送される時代だ。

 そう考えれば、大西さんがいう年収300万というのは、説得力のある数字なのかもしれない。そんな価値観が浸透すれば、この国の再生も可能だと思う。
 自然体験活動の普及には、指導者の養成が何よりも重要だ。そして、指導者の育成とともに、そこで働くスタッフの生活基盤の確立も、早急に取り組まねばならない課題だと思う。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。