- 第25回 -  著者 中村 達


「アウトドア元年だった」

 今年は「アウトドアズ」と「自然体験」にとっては、画期的な年だった。
 学校の完全週5日制と、自然体験学習の奨励義務が法令化された。もちろん、だからといって、この国の自然体験活動が、急に、飛躍的に発展したわけではない。むしろ、その動きは緩慢であるかに見える。
 しかし、学校や地域に、自然体験の波は、少しづつではあるが、確実に広まってきている。
 また、学校などでは自然体験学習を模索する動きが見られ、数多くの体験学習の事例が新聞などでも報道されるようになった。

 情報誌「日経トレンディ」でも、自然体験活動のビジネスが取り上げられ、学習塾などの事業が紹介されていた。出版社も来年は、「自然体験」関連の書籍の発行を予定している。大学の学部に、環境や自然といた学科を設けているところが増えてきた。学習塾業界も自然体験学習がテーマのひとつになってきたという。専門学校でも、アウトドアをテーマにしたものが検討されている。
 既存の自然学校も参加者が大幅に増えている。

 6月、私がプロデューサをしている「東京アウトドアズフェスティバル」でも、テーマを自然体験にしたところ、入場者は昨年より1万人も増え、平均年齢も若返った。
 長野県では、修学旅行の誘致活動が活発化してきているが、スキーに代わって自然体験がプログラムの中心になってきている。これまでのようなそば打ち体験だけでなく、雨でも歩け、体験できる態勢を、学校側が要望するようになってきた、と聞いた。

 一方、観光地でも変化が見られる。これまでのような「見る」「食べる」「寝る」といった観光旅行から、「自然」がキーワードとなってきた。そのために、各地でインタープリテーションシステム(自然案内)の検討が始まっている。来年以降、自然体験やアウトドアのガイドシステムが各地で立ち上がる。
 今年の夏、秋のアウトドアフィールドは、自然をもとめる観光客が増えた。彼らのファッションや持ち物もアウトドア風になってきた。生活者にも変化がでてきた。

 さらに、国の動きも活発化しそうだ。「川の学校」「田んぼの学校」など、省庁が企画する事業も数多く登場してきている。また、超党派の国会議員による「自然体験活動推進議員連盟」も設立され、活動を開始した。
 私が代表委員の一人をしている、アウトドアと自然体験活動の振興を目的とした「アウトドアズ産業教育研究会」は、行政、NPO、企業、学校など、全国レベルの産官学共同の研究会となって、すでに累計で1,000人を超えた。

 そして、自然体験.COMで展開した、トム・ソーヤ企画コンテストは、参加団体の熱意が報告書の質の高さや量となって、伝わってきた。学校や団体の、いずれ劣らぬ企画と実行力に、審査員や事務局は感動した。

 もちろん、学校の完全週5日制や総合学習には、さまざまな異論や批判もあり、一挙にこの国の自然体験が進むとは思えない。しかし、今年、各地の現場を訪れたり、いくつかのトライアルをしてみたり、あるいは数多くの情報に接して、自然体験は確実に子ども達に浸透していき、それが将来、この国のアウトドアズの発展につながるであろうと確信した。

 日本で欧米並みのアウトドアズがライフスタイルになるチャンスは、今年も含めた5年程度だろうと思っている。子ども達がさまざまな自然体験を通して、ライフスタイルに自然の感性を取り込んでくれれば、価値観は変わる。世の中が変わる。そう確信した、この1年だった。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。