  
- 第23回 - 著者 中村 達
「若者が山に登るのは偉い?」
ブナの紅葉を見ようと、比良山に登りに出かけた。昨年も同じ日に黄色く染まったブナの森を歩いた。比良山は琵琶湖の西岸に連なる山系の通称で、せいぜい1000mそこそこの低山だが、ブナの原生林や石楠花の群落などもあって、人気がある。また、京都や大阪からでも日帰りで登れるので、シーズンともなると大勢の登山者で賑わう。それに、山頂からの眺めがすこぶるいい。
今年は紅葉が早く、頂稜部では紅葉は終わっていた。祝日だったので、もっと混み合うかと思っていたが、予想に反して山は静かだった。
釈迦岳(1,061m)では単独行の中年男性に出会った。山頂からは琵琶湖の向こうに冠雪の白山が見えた。「あれが白山」などと同行者に説明していると、「白山ですか」と、驚きの声を出しながら、別の単独行の男性が登ってきた。この人も中高年だった。
最近、やたら中高年の単独行登山者に出会う。中高年登山者は総じて歩くのが速い。こんなスピードで大丈夫か、と思うほど登るスピードが速い。息を切らし、汗を流してどんどん登っていく。なぜそれほど急いで登るのかよく分からない。出会った彼らも歩くスピードが速かった。
しかし、そんな調子で登ると山頂にはたどり着けても、体力を消耗していて下降になると足元がおぼつかないことになる。そんな登山者にお目にかかることが多くなった。
この日も、普通のスピードで下山していて、何人かの中高年登山者を追いぬいたが、足元の不安定な人を何人も見かけた。
増える中高年登山者の遭難事故原因が、「こける、つまずく、すべる」という、きわめて初歩的なものが多いのだそうだ。ゆっくり登り、ゆっくり下りる。できれば単独行を避ける。これだけでも事故はかなり減ると思う。
ところで、登山者は少なかったが、何組もの家族連れの登山客に出会った。小学生や幼児を背負ったファミリーにもすれ違った。みんな元気に歩いていた。行き交う登山者から、「偉いねえ」などと声をかけられていた。そう言えば、私の姪もこの春大学生になってアウトドアサークルに入り、八ヶ岳はでかけたら、中高年のオバサン、オジサンに、「偉いねえ」と言われ、お菓子までもらったそうだ。いまや、この国では子ども達や若者が山に登る行為は「偉い」のだ。
下山途中、4人の若者達のグループに出会った。聞いてみると関西大学のサークルだった。1泊2日で比良山に登りにきたという。思わず「偉いねえ」と言いそうになった。
(次回へつづく)
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■著者紹介
中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。
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