- 第11回 -  著者 中村 達


 「この夏休み」と言っても、それは子どもたちだけだが、土日は相変わらず河原キャンプ、バーベキューパーティ組が多い。
 「夏のくつき子ども村」の取材のため、鯖街道を車で走った。鯖街道とはその昔、若狭で獲れた鯖を、山間部を越えて京の都まで運んだ道をそう呼んだ。いまでも街道のあちこちで鯖寿司が売られている。
 自宅から車で一時間ほど走ると、もう急峻な山間部に達する。そこは過疎地となっているところが多く、廃屋も目立ってくる。その廃屋の前を流れる渓谷の河原では、RVでやってきたファミリーが、にぎやかにバーベキューを楽しんでいる。なんとも奇妙な気がする風景だ。
 ただ、自然体験が学校でも言われるようになってか、すこし様子が変わったようにも思えた。釣り竿を持ったファミリーが、増えたように感じること。トレッキングのファミリーに出くわす機会が多くなったことなどだ。浅瀬の谷では、親子が水中探索をしていた。

 途中、数軒の集落の前に露店があったので車を止めた。老人がひとり、地元の山で採れた品々を前に座っていた。「こんにちは、売れますか?」「いや、だめだね」「何がいいの?」
 「これ、栃の木の蜂蜜、とてもおいしいですよ。この山で採りました。自信をもって薦めます。」と原生林の山を顎で指した。小さな壜には「栃の木の蜂蜜」と、採取年月日が書かれた手書きの紙が貼ってあるだけだった。それが気に入って買い求めた。800円だった。
 過疎化のことを聞いてみた。やはり若者達は少なくなってきたようだ。山仕事ではもう食べられない時代になった。残っているのは老人ばかりになってしまった。京都まで2時間程度の距離にあってもこの状態だ。
 わずかな耕作地も最近では鹿やイノシシの食害がひどい。見渡してみると、このあたりの農地は、すべて有刺鉄線や通電柵が張り巡らされていた。この先少子高齢化がさらに進と、このあたりはどうなってしまうのか。日本には似たような土地は非常に多い。自然体験にはもってこいの地だとは思うのだが・・・。

 雪は少々多いものの夏は涼しいし、何よりも空気がいい。こんなところで田舎暮らしもいいなあ、などと能天気なことを考えながら、携帯電話をかけようとすると圏外だった。
 情報に毒されている私のような人間は、まずその資格はないようだ。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。