対談者 (財)安藤スポーツ・食文化振興財団理事長・安藤 百福 環境ジャーナリスト・岡島 成行


〜子どもたちにすばらしい自然体験を〜

岡島 成行  安藤理事長がこの財団を設立された動機はどこにあるのですか。
安藤 百福  1980年代になって、青少年の非行が大きな社会問題になってきました。また、共働きの進行によって鍵っ子が家でお腹をすかせているとか、分刻みのスケジュールで塾通いに明け暮れているとか聞くと、将来を担う子どもたちの置かれている情況がとても気になったのです。
 心身共に健全に育ってもらうには、しっかり体を動かし規律や団結心を学べる環境が必要ではないか、それにはスポーツ体験がもっとも効果的だと考えて日清スポーツ振興財団の設立を思い立ちました。
岡島 成行  財団を設立された1983年から様々な活動をおやりになっていますね。
安藤 百福  日本陸上競技連盟と一緒にやってきた「全国小学生陸上競技交流大会」は今年で18回になります。
 走ることはあらゆる競技スポーツの原点ですから、小学生時代にしっかり基礎を学んでおくことは将来たいへん役に立つと思って支援してきました。もう、参加選手の中からオリンピック選手も誕生してるんですよ。
岡島 成行  自然体験活動にも早くから取り組まれていますね。
安藤 百福  私は人間が人間である所以は、創造性を発揮するところにあり、有用なものを創り出すことで豊かな社会を維持できているのだと考えています。野外活動では、食事や遊びのなかから、危険を避ける方法を学んだり、生きる知恵や創造的な心が育っていくと思うんですよ。
岡島 成行  そのとおりですね。それから、なにものも恐れないチャレンジ精神。私は高校、大学時代は山岳部に所属して山に登っていました。登山もチャレンジ精神なんですね。
安藤 百福  そうそう、そのチャレンジ精神が将来新しい事業を起こしたり、発明や発見につながります。子どもたちには常にチャレンジ精神を持ってほしい。岡島先生の専門分野である自然体験の現状はどうですか。
岡島 成行  最近は若い人たちが山へ行かなくなりました。自然離れが進んでいます。そんな中でこの4月から小中学校が完全週5日制になりますし、文部科学省は法律を改正して「自然体験学習」を奨励しています。これは子どもたちの教育環境にとっては画期的なことなんですね。
 今、些細なことで人の命を奪うまでの暴力を振るってしまう事件が後を絶ちませんが、自然の中で蟻を踏み殺した、トンボを殺した、といった体験を通して生命に対する原罪意識を覚え、蜂に刺されたたり、坂道で転んだときの痛みとかが、命の大切さを学ぶことになるように思いますね。しかし、その自然体験を教えられる指導者の絶対数が少ないのが大きな問題なんです。
 そこで、私は自然学校をつくり、リーダーを養成しようと呼びかけています。また、自然体験学校や野外教育の団体を取りまとめて、指導基準をつくる作業をはじめています。すでに自然体験推進協議会(CONE)というのを立ちあげました。
安藤 百福  私たちの財団が自然体験活動の「トム・ソーヤースクール」を始めてからもう10年になるのですが、年を重ねる毎に父兄からの期待が高まるものを感じますね。グループ活動の中で、年下の子の面倒を見て可愛がっていたりすると、家庭で体験できないことを学んでいるように思えます。
岡島 成行  親御さんたちがありがたがるわけですよね。
安藤 百福  それから、自然体験は物質文明の対極のものだという気がします。お金さえあれば何でもできるというのじゃなくて、自分の頭と体で工夫しないと解決しないこともあるということに気がつくわけです。
岡島 成行  とにかく2002年度は、学校完全週5日制とハッピーマンデーで休みが増えて野外へ出かける機会が多くなりますよね。そこで大事なのは、どこに行けば自然体験ができるか、どういう活用方法があるかという情報です。私たちが手がけるホームページがそのニーズに応える解決策を一挙に提供することができると思います。
安藤 百福  そうした情報を手軽に入手できるホームページとは、面白い仕組みですね。ただ、野外体験には危険がつきものですから、事故を避けるための心構えもしっかり身につけてもらわなければなりません。
岡島 成行  事故には不可抗力もありますが、危険な場所に連れていったなど指導者のミスリードのために起こる場合が多いといえます。注意を怠らなければ避けることができる事故だけは、絶対に起こしてはならないと思いますね。
安藤 百福  岡島先生がやろうとされている「自然学校をつくろう」という運動や指導者育成は大変素晴らしいことです。私は事業推進の際一番大切なのは仕組みがうまくできているかどうかだと考えています。構想の段階から現実に活動を始めると、二人の時は通じ合っていた運営方針が、三人、四人と組識が拡大していくにつれて曖昧になっていきますよね。
 しかし、リーダーの献身的な取り組みを含めて仕組みがしっかりしていたら、散逸しかかった運営方針を立て直すことができます。
岡島 成行  「仕組みをしっかりつくる」というのはいいお話ですね。指導者を育てる私たちの取り組みについても、是非安藤理事長のお知恵を拝借できればと思います。いずれにしても、自然体験活動は21世紀の重要な世直しではないでしょうか。
安藤 百福  そう、世直し、いいですね。世直しで子どもたちの元気を応援しましょう。


■対談者紹介

安藤 百福(あんどう ももふく)
1910年生まれ。(財)安藤スポーツ・食文化振興財団理事長、日清食品会長。
1958年8月世界初のインスタントラーメンである「チキンラーメン」を発明、1971年には「カップヌードル」を開発しインスタントラーメンを新しい食文化として世界中に広げた。
「食足世平」(講談社)「麺ロードを行く」(講談社)「苦境からの脱出」(フーディアム・コミュニケーション)「魔法のラーメン発明物語」(日本経済新聞社)など編著書多数。立命館大学名誉博士号、勲二等瑞宝章ほか諸外国からのものを含め数多くの受章がある。

岡島 成行(おかじま しげゆき)
1944年横浜生まれ。環境ジャーナリスト。大妻女子大学教授。(社)日本環境教育フォーラム専務理事、自然体験活動推進協議会代表理事のほか環境省、文部科学省などの審議委員を務める。1988年国連環境計画より「グローバル500賞」受賞。読売新聞記者、同解説部次長をへて現職。
著書に「アメリカの環境保護運動」(岩波新書)、「みんなが頂上にいた」(ぱあめ書房)「林野庁解体論」(羊泉社)など多数。