『自然体験には口コミが効果的?』
太田原 康志


 山に登って「ヤッホー」と叫んだことがない。スキーには数えるほどしか行ったことがない。海水浴には行くけど、海の中に潜ったことなんかない。田園風景を何度も眺めたことはあるけど、田植えや稲刈りをしたことはない。自然の中で過ごすといえば、バーベキューぐらい。でも、食べて、飲んで、おしゃべりして、それでおしまい。・・・そんな人たちが自分の周りにはたくさんいます。

 このような人たちは自然や体験活動が嫌いなのか、というとそうでもないようです。「今度、ピザを作るんだ。自分たちで作った石窯で焼いて食べるんだよ」とか、「今週末は、ツリークライミングをするんだ」といったちょっとしたプログラムでも少し声をかけるだけで「そんなのしてみたかった」とばかりに、多くの人が集まってきます。そして終わった後は、「楽しかった」「また体験したい」という感想がほとんどです。
 でも、一方では少し気になることがあります。別れ際には、ほとんどの人たちが「何かあったら、また誘ってくださいね」と言って帰っていきます。少し前までは、気にならなかったのですが、最近は「うん? それって、誘わないと行かないってこと?」などと思ってしまいます。というのは、一緒に行った人たちを少しだけ観察!?してみると、「楽しかった、また体験したい」などと言ってたわりには、自分たちだけで自然の中へ出かけていく様子がまったく見られないのです。

 自然体験は三度の食事よりも好き、というような人たちはほっておいても、どんどん自然の中へ出かけていきます。でも、そうではない人たちは、出不精で面倒くさいと思っている怠惰な人たち。しかし、そんな人たちでも自然が嫌いというわけではないので、誘われると自然の中へ出かけていきます。
 この怠惰な人たちが普通に自然の中へ出かけていくようになれば、自然体験人口はずっと増えるはず。でも怠惰な人たちは、「どんな体験活動があるのか」など、ホームページを検索しません。自然体験のチラシやパンフレットを見ることもありません。こうなってしまうと「じゃあ、どうすりゃいいの?」と言いたくなりますが、一番いいのは、怠惰な人たちの身近な人で「誘ってくれる人」がいてくれること。もしくは、せめて耳元で「囁いてくれる」人が身近にいてくれることでしょうか。
 これは、少し前に話題になった『口コミ』に通じるところがありますね。口コミというのは「人は無意識のうちに同調する」ということと、「人の行動は社会的背景によって決まる」という特性をうまく利用したものです。自然体験人口をもっと増やしていくためには、単なる呼びかけで終わってしまうような広報活動では、特に先ほどの怠惰な人たちには、ほとんど効果はないようです。でも、この口コミを誘発する原理をうまく活用できれば、怠惰な人たちをもっと自然の中へ連れ出すことができる、と思っているのですが、いかがでしょうか。


■著者紹介

太田原 康志(おおたはら やすし)
1963年愛知県生まれ。NPO法人自然体験活動推進協議会 事務局次長。
IT・通信機器やインターネット関連の企業にて、製品開発・マーケティング・社会貢献などの業務に15年間従事した後、2003年よりCONEに関わる。自然大好きな2児の父。