第78回「初冬の遭難案件」第2話 著者 村田 浩道


 かくしてこの遭難案件に関わることになり、この日は22時頃に友人と2人で武奈ヶ岳坊村登山口駐車場へ車両の確認へ向かった。

 自宅から1時間足らずの車内ではあまり楽観視しないほうが良いと思うと話し、要救助者の行動イメージを膨らませながら深夜の登山口駐車場へ到着した。真っ暗な人気のない駐車場には情報どおりの軽車両が本当にポツンと残されていた。それは持ち主の状況を知っている私には酷く不気味なものに映り、車内を確認するのも少し戸惑いがあった。
 車内には誰もいない、登山前に食べた物なのか、おにぎりなどの食料のごみが見えた。しかし、初冬の午後2時頃から武奈ヶ岳に登ろうとは無知、無謀としか言いようもない。元気な登山者でも往復4時間半程度はかかるルートであり、本人はトレイルランニング愛好者でもないらしいので、コースタイム通りに登れたとしても日没は免れない。
 日没行動不能であるからヘッドライトは無し、登山計画書の提出などもないだろう。となるとビバークできる装備も無いと考えられるので、ルートから外れていたら発見は難しくなるかもしれない。ご両親には状況を報告して、翌朝に管轄の警察署へ遭難事案として届け出をお願いしてこの日は終了した。



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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。