第67回「トレイル制作話⑩ 禅とトレイルと英会話」 著者 村田 浩道


 気づいた時には禅寺の長男として生まれていた私は、今になってようやく『禅』といういつも身近にあったものに興味がわいてきた。バチアタリである。また、こんな私でも永平寺僧堂で修行させてもらい、法衣を身にまとえば、心水清い皆さんから手を合わせていただけるという、何とも申し訳なく恥ずかしい禅寺住職の端くれでもある。

 禅の深淵は、覗けば向こうからも覗き返されており、自分自身の本質や生き方について常に鋭く問われている。シンプルながらも深く鋭いこの『禅心』を、自分の体験を基に理解を深め、環境、教育、観光などの分野を通して人々に伝えることができたら幸せだと考えている。
 その体験に有用なのがアウトドア体験であり、その中でもトレイルハイキングは非常に最適である。歩くという行為は私たちを集中と無心の境地へ導いてくれる。そして自然環境からは改めて私たちはこの自然界の一部であることを気付かされ、たった今この瞬間を生きることに集中すれば良いという人生のシンプルさに気づく。

 このような禅的思考とハイキングやワイルド坐禅(自然環境のなかでの坐禅)地域の食文化、歴史や地域のリアルな日常などを合わせたツーリズムを《禅ツーリズム》と呼んでいる。このツーリズムは、近年注目を集めている『Well-Being』との親和性が非常に高く、企業研修や企業福祉はもとより、青少年教育や人間形成にも活用されている。
 また、禅とハイキングの体験から得られる自然環境へのリスペクトは、自分たちが生きる上で自然環境がいかに大切かを認識し、環境への関心を高めることができる。一方でインバウンドツーリスト達からの需要も伸びてきており、『禅』がストロングポイントになって、とくに欧米からのツーリストを中心に問い合わせが増えてきた。



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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。