第58回「トレイル制作話①」 著者 村田 浩道


 私の仕事のひとつには、地方でのトレイル制作がある。一口に制作といっても、地方公共団体や地域へのプレゼンテーションから始まり、最終的にそのトレイルルートがオープンし、稼働し、地域経済に有用に働き始めるまでには多くの時間を必要とする。今回はそのことについての四方山話を書いてみたいと思う。

 現在、私がトレイル制作をしている場所は福井県にある。既存トレイルの活用プロデュースも含めると福井県内で3ヶ所ある。おおい町、若狭町、永平寺町である。私のトレイル制作の基本は、古道や登山道、時には河川や舗装道路なども活用し、既存の道に新しい魅力を付加してリメイクした後、その道を「歩く旅」の道としてプロデュースすることで、「自然環境の適正利用による観光活性化」を基本理念としている。カッコよく書いてしまったが、要するに“自然に敬意をはらい、面白いトレイルをつくって、皆で楽しく遊びましょう!そして地域お金を落としてね!”ということである。

 前述の3か所の内、事業規模が一番大きいのが、おおい町のトレイルで、名称を【名田庄トレイル】という。名田庄という地域は福井県で、最後まで残った谷あいの『村』で、2006年に旧大飯町と合併して、現在はおおい町名田庄となっている。名田庄という土地は陰陽師の里だと聞いていたので、以前から気になっていた場所でもあった。陰陽師といえば、安倍晴明。平昌オリンピックのフィギュアスケートで、羽生結弦選手を金メダルに導いた楽曲「SEIMEI」も有名である。
 陰陽師は、朝廷の役所「陰陽寮」に仕える役職で、古代中国の陰陽五行説に基づき、天文・暦・占いなどを司る今でいう公務員であった。と、名田庄にある「おおい町暦会館」の職員さんに教えてもらった。さらに、大陰陽家として名高い安倍晴明を始祖とする土御門家は、「陰陽寮」の長官を世襲しており、その後、応仁の乱などの戦火を逃れるため、1400年代にこの名田庄の地に移り住んだそうである。

“めちゃくちゃミステリアスな場所。ここでのトレイル事業は面白いにきまってる”。
 そんな私の興味とともに、名田庄トレイル構想は、その旧村を一周する全長約100kmを掲げ3ヶ年計画がスタートした。
※画像はイメージで本文とは無関係です。



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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。