![]() ![]() ![]() 第55回「登山番組収録③」 著者 村田 浩道
いよいよロケスタートの日を迎え、早朝から草津市の待ち合わせ場所へ向かい、撮影クルーとスタッフと共に山へと向かった。ディレクター、カメラマン、音声、ドローンパイロット、歩荷(ボッカ)4名と私の総勢9名である。12月に入って急に初冬の空気に包まれ、寒い朝からのスタートとなった。これだけ多くのスタッフと多くの時間をかけてロケをして、最後に編集へ向かうのである。私も良い番組作りに貢献できればと気を引き締めて臨んだ。 この番組が長寿番組であり、多くの登山愛好者に支持されてる理由は、1つは映像の美しさにあると思う。もちろん天候が大きな要因だが、ロケ中の映像のこだわりと、それに割く時間はさすがにプロの仕事だ。 特にドローン空撮は、技術がどんどん向上してかなり美しい反面、とにかく時間がかかる。プロパイロットでも、全く同じドローンの動きというのはできないらしい。風の強さ、被写体のスピード、コントローラーとドローンの反応速度などが複雑に絡みあって、これぞ!という納得の映像を撮るのは、かなりの時間が必要だ。 そのため私は何テイクも同じ場所を歩く・登るという事になる。まぁ、想像はしていたがかなりの回数だ。平坦な登山道ではなんてことないが、何しろ見せ場は風化した花崗岩のアルプス的景観を登っているところだ。ザレた急斜面を15テイクぐらい登って下った。 ![]() 「もう一度!」 「映像チェックします!」 「うーん、、、もう一度いいですか!」 こんなやり取りが続いた。もちろん、くたびれるがこちらもプロの端くれである。全く平気を決め込んで飄々とのぼってやった(笑)。 「OKです!」のディレクターのひと言で次へ進む。 番組の放送枠は30分と、長くはない番組ではあるが、このこだわりと、それぞれのプロの仕事が多くの登山者に支持されて、長寿番組になっている理由なんだろうと感じた。 ならば私もとにかく成り切ってやってやろうと思った。 これを書いている今日は日曜日で、天候の都合もあって待機日となっているが、昨日の土曜日は上天気で、トレラン大会の試走などもあって山は大賑わいだった。他の登山者が映り込むことは基本的にNGなので、なかなか撮影は進まない。待ち時間の中考えていたが、今の登山と観光、地域活性を考えるときに、このように賑わいを見せる山の特徴は、周回、手軽、景色。そこに駐車場、トイレ、イベントなど地域の取組が関わる。そこに収益構造を見出すことは簡単ではないが、これが伴わなければ活性化はできない。しかも手軽に良い景観、丁度よい山なんて限られていて、その多くは商品化は難しい場所が多いのが現実。 しかし、地域の自然とヒト・モノを含めた資源を、どんなデザインで世にだすか検討を重ね、その山、そのトレイルに価値を付加していくことが求められている。私はどこの地域も、ヒト・モノのデザインによって、必ずオリジナルの価値は見いだせるものと考えている。今回の取材撮影も、私ならではの価値を付加した内容ではないかと思う。 ■バックナンバー ■著者紹介 村田 浩道(むらた ひろみち) 日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。 高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。 |