第44回 著者 村田 浩道


 この地域社会との合意形成を進めて行くうえで、大切にしなければならないのは、自然、文化、人へのリスペクトなのである。しかし、この部分が利用者レベルで軽視されていないかだろうか?今年の冬季シーズンも大峰の有名氷瀑スポットに出かけたが、真新しい立札で「ここは登山道ではない。駐車マナーの悪さやゴミも山中にたくさん見られる。私有地部分もあるので立入を禁止します。」と出ていた。

 お客様にもご理解いただき別のスポットにご案内したが、ここは以前から私有地問題や駐車、ゴミなどの問題があり、そのつど所有者の方や行政も交え、地元山岳会、登山者などが話し合った。あたり前の利用マナーを守ることで、地域の自然、文化、人へのリスペクトがなされてきた。ところが、またこのような事態である。さらに悪いことに、「立入禁止と書いてあったけど、ゴミや駐車マナーを守って行ってきました!」とSNS投稿する一部の登山者。立入禁止区域に入ること自体がマナー違反であることに気付かないのだろうか?

 私が地方でロングトレイル事業を進めて行くときに必ず聞こえてくるフレーズがある。「登山は、ゴミは残すけど金は残さん」。このフレーズは嫌というほど聞いてきた。その度にトレイルの有用性や、その可能性を説くことに多くの時間をかけてご理解いただいている。
 そんな中で前述のようなことがあると、腹立たしくも悲しくもある。もちろん多くのハイカーやクライマーは地域の自然、文化、人材へのリスペクトを忘れていないし、それを忘れることが自分たちにハネ返ってくることも十分理解している。自然は皆のものであると同時に、それを守り、そこに暮らす人々がいてこそ美しいのだ、ということを忘れずにいたい。
※画像はイメージです。



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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。