第43回 「立入禁止」 著者 村田 浩道


 登山業界の末席に身を置き、またロングトレイル振興に関わりを持たせていただいている身としては、特に考慮して活動していかなければならない部分の一つに、地元で暮らされている方々との相互理解がある。これまでもさまざまな場所で、多様な議論がおこなわれてきた。

 多くのメジャーな登山道においては、林業、ダム建設、レジャーなど、その成り立ちは様々あるが、長い歴史の中で認知され今日に登山道として活用されている。また、その管理の方法についても多様ではあるが、国立公園や国定公園内に登山道の多くは、行政の管理下において、山小屋スタッフや地域有志の活躍により整備されて、多くの登山者が山を安全に楽しみ地域振興にも繋がっている。
 一方、このようなメジャーな場所においても、自然環境を維持するために登山マナーの向上に長年にわたって啓発されてきた歴史がある。整備費用、ゴミ処理、トイレ、オーバーユースなどの課題に、地域の皆さんや関係者の方々は知恵を絞って取り組んでいる。
 ところが、これが地方の里山などマイナーな山域ともなると、行政からのサポートも難しく、課題解消への道はさらに困難になってしまう傾向にあると思っている。

 ロングトレイルを地域振興として活用していくためには、地域行政の協力は欠かせない。地域振興への取組み形態としては大きくは2種類ある。1つは【行政主導型】。もう1つは【地域住民熱意型】と呼んでいて山岳会や地域人材の熱意が取組のきっかけとなっているもの。
 それぞれに良い点と難儀な点があるが、大まかにお伝えすると行政主導型の場合予算はあるが地域住民の理解が少ない。地域住民熱意型は、地域の理解はそこそこあるが、予算が少ない。このような特徴がそれぞれにあり、事業を進めて行くにあたっては、どちらもなかなかに難儀だ。

 地域の1番の関心事は暮らしである。この種の事業を行う場所の多くは、中山間地区であり、場所によっては廃村なども多くあるため、地域の高齢化が1番の問題点となっている。交通や医療、福祉などが大きな論点であり、もっとも大切な取組みとなっているのである。
 この中で観光振興に取り組む目的と理由としては、交流人口を増やし観光収入を増やすこと。それに伴って地域雇用を生みだし、人口流出に歯止めをかけること。大きくこの2点だと考えている。この2点を進めていくには、地域行政はもちろん、住民のみな様との相互理解と協力体制を築くことである。信頼関係の構築も重要だ。これがこのトレイル振興事業の肝心要の部分であり、一番時間がかかり必要絶対条件だと思う。
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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。