第32回 「ガイディングの『キモ』」著者 村田 浩道


 10月最初の土日に急に予定が空いたから、大キレットに行きたいとの問い合わせがあった。いろんな行程を考えたものの、やはり紅葉時期の北アルプス、しかもコロナ禍では小屋の予約もままならず、テント泊も提案したが「それはちょっとしんどいです~」との返答。
 結局「場所はお任せ!」とのオーダーとなった。このお客様とは長いお付き合いをさせていただいており「顧客」と呼ぶにふさわしいお客さんである。ということは、かなりの場所をご一緒させていただいており、お客様のレベルや一泊の制限、天候などなど考えて場所を選定する。が、実はこの作業がガイディング事業の「キモ」であってかなり頭を悩ます。

 私の場合はオープンで募集している企画ものは少なく、口コミやご紹介によってご依頼いただきガイディングさせていただく、クローズドのガイディングが大半である。お客様のレベルがわかっているので、山やルート選定の際に大きな目安となり、それが安心安全に繋がるのである。本来ガイドとはお客様が行きたい山やルートに案内するものであるからこのやり方をとっているが、お任せでお願しますとなると悩む・・・。なぜならお客様が楽しく登れて達成感があり、それなりにレベルアップもしてもらいたいからである。

 ここから専門書、過去データなどなど引っ張り出して悩む、悩む・・・。これがホントに悩ましいのである。今回のように長いお付き合いだとなお更で、誰か決めてくれーと叫びたい。これに比べれば難ルートのガイディングの方が気楽だと感じる。危険個所ではロープで繋いでガイディングすればまず心配ない。ルートを決定し登山計画書が完成すれば、半分以上仕事が済んだようなものだと感じている。なにを隠そうこのコラムを書いている今日も、山行計画を立てる仕事が待っている。きっとこの悩ましい時間にも、お客様は楽しい山行を思い描いてワクワクとされていることだろう。その顔が思い浮かぶとますます悩むのである。



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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。